社会部には「泊まり」という特殊な勤務がある。山陽新聞製作センター(岡山市新屋敷町)の編集フロアでは毎晩、泊まり勤務の部員が岡山県内各地の事件事故を警戒し、朝を迎える。
新聞の締め切りが過ぎると別室で仮眠するが、なかなか寝付けるものではない。朝五時には警察や消防、海上保安部、JR輸送指令室など十カ所以上に「昨夜は平穏だったでしょうか」と電話を入れる。
これを「警戒電話」と呼んでいる。船舶や列車事故は発生頻度は少なくても、大惨事が想定されるので気は抜けない。新聞報道の基本は現場写真をいかに押さえるか。情報キャッチの遅れは命取りになりかねず、泊まりの役割は重要だ。
しかし、電話の相手は、いつも即答してくれるとは限らない。ひき逃げ事件でマスコミが現場を踏み荒らせば、塗膜片の採取など鑑識活動に支障を来しかねない。だから、発生当初の警察の返答は「何もありません」となる。この壁をどう突破するのか。マスコミに応対する泊まり長が長時間不在▽電話の背景音に激しい無線のやり取り―といった異変に反応する記者の“嗅覚(きゅうかく)”が問われてくる。
四十歳まで経験した私の泊まり勤務は、連続放火事件によく泣かされた。ぼやと思って現場に行かず、大目玉を食らった苦い記憶がある。先月、社会部に配属された新人二人は、泊まりデビューに「一時間しか眠れませんでした」。不安と緊張の一夜。言葉は悪いが、一歩ずつ成長するためにも、早く事件の洗礼を受けることを願っている。
(社会部・広岡尚弥)