臭くて重い牛ふんの処分を簡単にする方法はないか。そんな発想で始めた研究。水を加えて熱する。温度が高すぎると焦げ付き、低すぎるとにおいは消えない。約2年の試行錯誤から思わぬ成果が生まれた。バニラの香りの成分「バニリン」の抽出に成功したのだ。その瞬間、研究室に「お茶をいったような香ばしい香り」が漂った。
上野動物園で働く知人から牛やヤギなどの排せつ物をもらい受け、本業の高分子研究と並行して何百もの試料で実験を繰り返した。
学生時代は化学が苦手だった。「面白い」と助言してくれる上司や先輩に励まされながら、社会人として初めて取り組んだ本格的研究は、世界の関心を集めた。「人を笑わせ、そして考えさせる」研究に毎年贈られ、「裏ノーベル賞」とも言われる米国の「イグ・ノーベル賞」の化学賞を受賞した。
子供のころから動物好き。高校時代には北海道の農場で1カ月、牛の世話をした。大学でも農学部で動物の飼料について学んだ。今回の研究は、国立国際医療センター研究所勤務時のもの。「酪農家の大変さを軽くしたい、不要と思われているものを役に立たせたいという気持ちでした」
米ハーバード大で4日行われた授賞式でトロフィー贈呈役を務めたノーベル化学賞受賞者、ウィリアム・リプスコム氏は「一級の研究」と絶賛。「ノーベル賞も狙いますか」と問われると、「取れるといいですね」とはにかんだ。【和田浩明】
【略歴】山本麻由(やまもと・まゆ)さん
東京都生まれ。小学生時代、研究者の父と1年間米国で暮らす。宮崎大卒。国立国際医療センター研究所を経て外資系医療機器会社勤務。26歳。
毎日新聞 2007年10月8日 0時21分