|
素人経済論 第3弾 文藝春秋の日本大変! 10人論客の解析 11.16.2002 |
|
このところノルマ超過剰で、土日といえども余裕が全く無かった。こんな生活をしていると、「出超で中身がなくなる」だけだ。今週も土日のノルマを果たすべく、オフィスにでてきたが、机の上に、読まれないまま放置されている文藝春秋があって、これを手にとってちょっと見たのが運の尽きか。こんな余計なことをしている時間などはない、のだが、まあ良いか。 C先生:文藝春秋12月号の記事だが、p94から始まってp126まで、実に長い。10名の論客が色々と解析し、自己主張をするのだが、混線していて全く良く分からない。各人がどのような思想を持っているのか、その解析をしてみたい。 A君:解析法を考えますと、発言者別に分けて、論拠となっているもの、他人と合意されているもの、されていないもの、などを分類するのでしょうね。 B君:推測でモノを言うのは問題かもしれないが、経済の専門家などというものも全く当てにならない、という結論になるだろう。やはり、経済学は実学ではないのだろう。もしも経済学が本当に経済を解析するツールであるのなら、10人が同じことを言わなければならないはず。 A君:B君の発言を無視して、まあ進めますか。 C先生:多少作業に協力して、出席者とその役職だけはまとめてみよう。 金融関係者+総研 コンサルタント+政府系 大学教授 一応、こんな分類にしてみた。 A君:補足しますが、小林慶一郎氏の所属である経済産業研究所は独立行政法人で、理事長岡松壯三郎氏。経産省系です。
(1)植草一秀(野村総研) 竹中評価:過去のいずれの公約も撤回していて、重みに欠ける。 竹中副作用:株価は4000円台まで落ちる。 竹中人事:兼任人事はある意味でよかった。株価の下落の原因が竹中個人にあることが明確になった。 銀行評価:これはここで合意できたと思うが、多くの金融機関で経営責任と株主責任が表面化するだろう。 小泉評価:3年間不況が続くなどといっていること自体が不況の原因。「性格転換なくして政策転換なし」。 財政出動:緊縮財政こそが問題。 需給ギャップ:これは認める。民間需要主導の需要拡大の軌道を作るために、財政を呼び水として使うというだけだ。現在緊縮に振れすぎている財政の修正。 2003年予測:小泉内閣の三原則、「非を認めない、取り繕う、自画自賛する」がある限り、ドロドロの修羅場となる。
A君:この手の論理でよく分からないのは、財政出動を行ったとしても何に使うのかということですね。相変わらず箱物を作るということでは、砂地に水を撒くようなもので。 B君:中小企業や零細企業で、将来性があるようなところに直接事業を与えないと。 C先生:その評価を誰がどうやって、といった具体的な作業になると、どうも実現性が薄い。 A君:それに、日本の国家財政は44兆円しか税収が無いのに、30兆の国債だとか言っていますから、将来この方針でどこまで進めるのやら。 B君:問題は2点。現在30兆円と言われる需給ギャップをどのように縮めるのか。例え需要を拡大して、ギャップが縮められたとしても、今のような安物を大量に供給するのでは駄目だ。価値の高い品物を買うような社会にしないと、環境負荷は増えるばかり。 C先生:グローバリゼーションを今回議論されていないのだが、このあたりから考え直さないと駄目のように思う。 A君:グローバリゼーションは、どうも先験的に良いことになっているのではないでしょうか。 B君:議論がなぜそこに行かないのか。考えていないのか。ローカルプロデュースとかいった発想が無いのか。 (2)川本裕子(マッキンゼー・アンド・カンパニー) 竹中手法:銀行を国有化しても問題は終わらない。竹中の先鋭的な方針はある程度評価できる。具体策が無いのが問題。 竹中副作用:企業整理=企業倒産ではない。パニック心理が強まっているのは誤解。 深尾批判:銀行国有化プランは緻密だが、実行できない。国有化が自己目的化しているのが問題。 全体:本気で変わらないと。 C先生:何を求めて本気で変わらないとなのか。本音がどこのあるのか、今ひとつ良く分からない。 A君:何を基本にして発言しようとしているのか不明。 B君:発言量が少ないということは無視して良いということだろう。どちらかと言えば、竹中同調派? C先生:何を目的で変わる必要があるのか? 変わろう変わろうといっても、全く無駄だろう。 (3)武者陵司(ドイツ証券) 現状認識:現在の株価水準は十分に安い。 目標誤認:デフレを止めて、不良債権を綺麗にして、銀行を復活させて、かつてのように2〜3%の潜在成長率を達成すること、こんな目標自体が高望み。世界全体がデフレ化している中で、日本だけの努力だけで脱出できるのか。 世界認識:政府に多くを望まない。なぜならば、バブルが潰れて不良債権が大変な規模に膨らむことが世界中で起きる。日本はバブルのピークのときに、株式市場の時価総額がGDPの1.4倍だったが、アメリカはすでに2.1倍になっている。ヨーロッパも、アジアも似たような状況だ。アメリカの銀行は、日本以上に貸し渋っている。 解決策:「デフレ均衡」をできるだけ維持して最終的な破綻だけは回避するという低いハードルを設定して、政策を考える。
A君:この人は、日本人の多くが、いまだに、何をやっても金儲けができたバブル時代を懐かしんでいることをせせら笑っているように思える。 B君:世界的にもっと怖いことが起きそうだ。突然だが、やはり、食糧自給率を高めることが、当面の日本の目標なのではないか。 C先生:経済の専門家よりは哲学者。 (4)森永卓郎(UFJ総研) 竹中の狙い:潰した企業をハゲタカファンドに売ること。 推奨手法:まずデフレを退治して、それから不良債権処理をすべきだ。 小泉評価:インフレ・ターゲットの重要性を分かっているが、まず、不況に誘導してばたばたと企業を潰し、銀行を国有化した後で、対策を打って、V字回復をさせて、自分の手柄だと言いたい。 竹中評価:ハゲタカの利益と自分の手柄のために日本経済を犠牲にしようとしているから許せない。 現状認識:一人違う意見だ。バブル期の過剰融資に伴う銀行の不良債権処理はすでに終わっている。現在の不良債権は、それ以後のデフレで発生したもので、バブル期の問題ではない。 将来:3月19日の日銀総裁の任期のときに、民間からまともな総裁を据えれば問題は解決する。とりあえず、竹中チームをフリーズさせて、3月19日を待つ。 2003年予測:ハゲタカの狩場になる。現在の不況は竹中が意図的に誘導しているので、2004年からは、劇的に回復する。 個人対策:株はまもなく劇的に上がる。だから、いつでも現金化できるようにしている。 C先生:反小泉、反竹中の感覚が面白い。両名とも自己顕示欲が強く、そのために日本を不況にしていると感じているようだ。正しい感覚かもしれない。 A君:ただ、普通の市民が銀行の行動に対して相当の反感を持っていることを理解していないのではないでしょうか。 B君:所詮、UFJ総研だからな。発言が銀行の責任回避と自己防衛に繋がっているような気がする。 (5)山崎 元(UFJ総研) 竹中評価:皆さんが言うほど、竹中手法がおかしいとは思わない。景気の話とは切り離して、金融システムの安定化は行うべきだ。なんでも景気と結びつけてGDPで評価する風潮はおかしい。 竹中手法:むしろ、この手法すら実現できないことに危機を感じる。 銀行批判:顧客を潰し、信用収縮を起こしてでも自分だけ助かろうとする。公共性の認識がかけらも無い。 デフレ評価:日銀が土地や株を買うといったアンフェアなことをしても、デフレは退治しなければならないのか。1.5%のデフレは、物価安定の範囲内ではないか。 日銀:土地や株を買うのは、土地や株を持っている人のためでアンフェアだ。フェアネスが大切だ。 武者評価:目標が高すぎることに同感。経済政策に過剰な期待をもっている。 現状認識:最大の原因は民間企業の努力不足である。 銀行責任:1999〜2000年の時期に株式を処理できなかった銀行の責任は大きい。そのときの経営者に責任を取ってもらうという意味では、竹中の方針は正しい。 個人対策:優良銀行に普通預金で預ける。しみじみとデフレなれをする。
A君:この人の資産は郵便貯金と東京三菱銀行の普通預金らしい。 B君:民間企業の努力不足という点、ある程度納得できる。最近の民間企業は、シュリンク思想だけだ。別に、バブル思想を持てとは言わないが、自らが所属する企業のヒューマンキャピタルを高めようという発想すらない。 C先生:フェアネスが大切だという人は、大体、銀行の経営者の責任に言及している。外部から見ると余りよく分からないが、多分、それが正しい感触なのだろう。 (6)箭内 昇(アローコンサルティング) 状況把握:大銀行に責任がある。不良債権というガンをここまでホッタラカシタのは組織防衛に走った大銀行だ。この部分は、竹中改革案を支持したい。 竹中の欠陥:しかし、銀行改革は必要条件であって、十分条件ではない。医療の全体を仕切っている小泉首相に意気込みが無い。 銀行責任:自分も長銀にいた。銀行マンのビヘイビアを考えないとだめだ。銀行マンは、どの企業が駄目か分かっているのに処理しない。それはそのような駄目企業と濃密な人脈があるからだ。 2003年予測:中小企業に金を回さないと。 個人対策:常に手元に100万円ほどの現金を置いておく。残りを円資産と外貨で半々。 C先生:もう少々発言を聞きたかった。恐らく、銀行の内部について良く知っている。 A君:小泉首相の責任は重大ですが、本当のところは、小泉さんも経済政策の限界を知っていて、何もやらないのではないですかね。 B君:景気というのもは、実際、市民各人の「気」の問題だからな。各人がもう少々「元気」にならないと、いくら経済政策をやっても駄目だ。 (7)小林慶一郎(経済産業研究所) 現象解析:デフレと不良債権は入り組んだ現象だ。 竹中法の評価:非常に高く評価できるが、2つの不足がある。セーフティーネットの整備。金融と産業の処理スピードの区別。金融だけを迅速に、産業は数年掛けて。 デフレ対策:金融派も財政派も、国民負担の増加という点では同じ。 日銀:深尾流にやっても、日銀のバランスシートに穴があくだけ。 植草批判:不良債権問題は原因ではなく、結果だと言っている。 状況把握:銀行は優良な大企業にお金を貸したいが借りてくれない。中小企業はのどから手が出るぐらいお金が欲しいのに、銀行が貸してくれない。 C先生:途中から発言が少なくなってしまった。どうも、国の財政破綻が心配なのではないだろうか。 A君:政策的には手詰まりであることを知りすぎているのでは。 B君:竹中流を進めてみたいというものが本音なのだろうが、多くの大反対にあって、黙ったのでは。 (8)金子 勝(慶応大学教授) 竹中の行動予測:「緊急性に鑑みて」、と発言し、結局は腰砕けになるだろう。 目標論:最終処理が一気にできる訳が無いのは、当然。15兆円の投入でここまでできると言うべきだ。 銀行責任:無責任体制が状況をひどくした。経営責任とワンセットでやるべきだ。公的資金の注入には責任問題は避けられない。大野木元長銀頭取が同情を集めているのは異常だ。 2003年評価:ブッシュのイラク攻撃と呼応して、緊急事態だということで、妙なことが行われることが怖い。財政赤字と日銀マネーじゃぶじゃぶでは、どうしようもない。今ある危機は、地方経済と中小企業。直接小さな事業を与えるべきだ。 日本は何で食うか:技術力で高付加価値をつけて売ること。生産技術ではまだまだ優位。 C先生:まあ、普通の発言が多いが、同じ慶応大学教授ということで、竹中への対抗意識が非常に強いように見える。 A君:銀行性悪論者のようですね。 B君:中小企業対策の方針は良いが、どうやってそれを実現するのか、といった具体的なプランが欲しいところ。 (9)深尾光洋(慶応大学教授) 推奨手法:インフレターゲットを取り入れる。 銀行の現状:500兆円の金を平均1.8%の利率で貸し出しているが、貸し倒れが2%あって、業務を遂行する部分が赤字になっている。全体で3兆円のロス。 小泉評価:インフレは駄目でデフレは良いという単純な思い込みがあった。 デフレ評価:1.5%でも、質の向上や製品の改良などが反映されていない。実質プラス1%ぐらいで本当のゼロだ。 現状認識:現在、現金・国債バブル状態だ。政府が価値を保証している紙切れに投資をしている。 日銀:バブルの対象=現金・国債を大量に供給して、売られている実体のあるものを買えば良い。株・不動産を買う(不動産投資信託や株価連動の上場投資信託)。ただし、物価が上昇率がある値になったら、必ず売ることを決めておく。中央銀行が実物資産を買うのはおかしなことではない。 ヘリコプターマネー:単に現金をくれてやることで、減税と変わらない。 現金に課税:バブルの対象である現金、預金、国債に課税する。2%ぐらいでよい。 銀行国有化:大半の銀行は実質的に債務超過だから、国有化だ。 銀行責任:経営者の総入替えが必要。役員と執行役員を全員解雇し、退職金を払わないが、それ以上の責任追及はしない。 2003年予測:金融危機よりも財政破綻が怖い。 学生の就職:自分自身のヒューマンキャピタルの向上。
A君:結局グローバリゼーションそのものに、何らかのメスを入れないと、この深尾流でやったら、全部滅茶苦茶になりそうな気がしますね。 B君:インフレターゲットというもの自体、なんだから危険思想のようにも思える。日銀を放任するのも同様に問題だが。 (10)斉藤精一郎(立教大学教授) 竹中評価:「支持? とんでもない」。竹中チームでは上手くいかない。 竹中法の欠陥:過大債務を抱えた企業が多くて、基本的に供給過剰になっていること。インフォームドコンセントという概念がないために、不安だけ。執刀医に対する信頼感が無い。 竹中の行動予測:銀行の経営陣は責任と問われることを嫌がっているから、銀行の責任は曖昧にして、RCC(整理回収機構)に補助金を出して不良債権を簿価で買い上げるだろう。 小泉評価:経済が分かっていない。竹中人事は、金融相と経済財政相を兼任させるなどは危険極まりない。 財政出動:堺屋太一氏のように5年か10年、大盤振る舞いをやれでは、財政破綻。 他人の評価:植草氏は財政出動派。深尾氏は金融派でヘリコプターから金をばら撒けば、景気が回復するという。 日銀:なんでもありはまずい。日銀が実物資産を買うのは、フリードマンのおかしな経済学だ。根本的に間違っている。 深尾流の現金に課税:倒錯した政策だ。本当の問題点は、需要と供給のギャップが30兆円もあること。 解決策:需要と供給のギャップ30兆円を埋めない限り、問題は解決しない。ルーズベルトのニューディール政策も実際には、問題を解決しなかった。第二次世界大戦になってやっと問題の解決を見た。供給過剰を是正するしかない。現状では企業の数が多すぎる。 現状認識:債権放棄を受けたゼネコンがダンピング価格で入札し、大手スーパーが投売りをやる。ある中小企業団体の幹部が最近上向いたというのでその理由を尋ねたら、過剰債務を抱えた業者が何社か倒産したので採算が合うようになった。 学生の就職:経済学部には行くな。 C先生:現状認識には比較的同意できるのだが、具体的な対応策が示されていない。評論家的なスタンスに終始している。 A君:需給ギャップ30兆円が問題ということに対して、何をやればということを示して欲しいですね。 B君:やはりグローバリゼーションを放置しては、需給ギャップは縮まらない。 C先生:10名の論客の意見をまとめると、現在のデフレ状態を解消しなければならない、と考えているのは、大体共通だが、2名程度は、世界的な問題だから、日本だけで何かできるのは期待過剰だという感覚を持っているようだ。 A君:やはり、世界経済全体のあり方が、日本ではデフレという現象として見えている。そして、米国・ヨーロッパではバブルとして表れている。 B君:我々の考え方は、現状のグローバリゼーション、すなわち、コストのみを最適化するという考え方に根本的な問題がある、ということ。グローバリゼーションも、何がフェアなのか、どのような経済活動が人類全体にとって、また、地球にとって、さらに、将来世代にとってフェアなのか、ということを組み込んだグローバリゼーションが実現されない限り、問題は解決しない。 C先生:ということになると、日本経済の再生は当分の間無いことになる。そんな感触を持っているのが、10名の論客の中では、武者氏か。山崎氏も近いようだ。 A君:しかし、武者氏は、どうも「単なる無策」のようにも見えますね。 B君:日本企業も、長期戦を覚悟して、しばらく先の体力維持を目指すべきでしょうか。 C先生:そんな気分になっている企業が少ないのが問題。毎日の栄養が行き渡らないと、気力も萎えるものなのだろうが。 A君:10名の態度全体に対する印象ですが、もっと根本的な問題として、経済関係者だから当然なのかもしれませんが、「資本に対する責務」を「人間に対する責任」よりも重く見るという根本的な間違いがあるような気もしますが。 B君:これが資本主義というものだから仕方が無いと思っているのか、それとも当然だと思っているのか。 C先生:恐らく、そこまで議論を戻してしまうと、経済というものの意味そのものが揺らぎだす。今回の討論会からも分かるように、経済の専門家などといっても、統一的な理解など全く無い。それだけ、カオスということなのだろう。 A君:考え方の基盤とすべきものの選択が間違っているという感触。 B君:経済は難しいと思わせることが、経済の専門家にとって自らの稼ぎを増やす手段でもある。 C先生:現状なら、まあ、何を言っても経済学者になれそうだ。 |
|
|