●「古典的手口」いまだ横行
 
 タイで犯罪に巻き込まれる日本人が後を絶たない。海外の日本人犯罪被害者などを在外公館が援護する「邦人援護件数」を公館別にみると、2006年まで14年連続で在タイ日本大使館受け付け分がトップ。観光客や在留邦人が多いこともあるが、日本人ばかりを狙った犯罪も昔から横行している。在タイ日本大使館は「警戒心と予備知識があれば防げたケースも少なくない」と注意を呼び掛けている。 (バンコク・柴田建哉)

 ▽最後は大負け

 「こんな手口がまだ通用しているのか」。在タイ日本大使館の石川達雄参事官は20年ぶりにタイに赴任して驚いた。1980年代後半に勤務していた時から問題になっていた「いかさま賭博」がまだ続いていた。

 いかさま賭博は日本人をターゲットにした古典的な犯罪だ。細かな設定は違うが、基本的なストーリーは変わらない。

 「妹に日本のこと教えて」と英語で話しかけタクシーで家に→カジノのディーラーを名乗る兄が登場し、いかさまトランプ(ブラックジャックなど)の手口伝授→“カモ”役を装った外国人が現れ、ゲーム開始→最初はいかさまを使って勝つが最後は大負け→金を払わされる(クレジットカードでキャッシングさせる場合も)。

 「子どもだまし」と笑えない。この「いかさま賭博」の日本大使館への被害届は、昨年65件。今年も半年で12件に達した。帰国後、知人に話して初めて「だまされた」と気付くケースもあるという。

 タイ観光警察によると、犯人グループはフィリピン人のケースが多く、大金を巻き上げて出国する「ヒットアンドアウエー」を繰り返しているという。千数百万円をだまし取られた被害者もおり「犯人たちは役割分担やしゃべりが極めて巧妙だ」と話す。

 ▽親切があだ?

 被害が最も多いすりも、現場は人込みの中だけではない。タクシーを停車して通行人に道を尋ね、「地図で教えて」と車内に誘い、丁寧に説明させているすきに財布を抜き取る「道尋ねすり」といった手口も登場した。

 「睡眠薬強盗」は今年の8月だけで4件発生。一緒に食事中に飲食物に薬を入れられて意識が薄れ、気付くと貴重品がない‐というパターンが一人旅の男性を狙って繰り返されている。グラスだけでなく、クッキーに混ぜたり、缶ビールの底から注射器で入れたりするなど多彩だ。

 それにしても日本人の被害を何とか防げないのか。一線で捜査に当たるタイ観光警察のサムラーン局長に尋ねるとこう指摘した。「親切で優しい日本人は、相手もそうだと思っているのではないか。逆に犯罪者は日本人は金持ちで、だましやすいと思っている」。魅力あふれる「ほほ笑みの国・タイ」の旅を満喫するためにも、警戒心だけは怠らないようにしたい。

=2007/10/09付 西日本新聞夕刊=