◇世界最高峰を極めたオープンスポーツ誕生
626馬力/V8ユニットは優雅にパワフルに走る
メルセデス・ベンツとマクラーレンという“夢のコラボレーション”が生み出したメルセデス・ベンツSLRマクラーレン。カーボンモノコックの軽量・高剛性ボディに、600馬力をはるかに超えるパワーを生み出すエンジンを搭載し、最高速度は330キロ以上! スーパーなスペックがずらりと並ぶドリームカーがリリースされたのは、2003年だった。そして、かねてから噂されていたオープンバージョンが登場。これまでのクーペに代わって、07年9月からは新型オープンモデルのデリバリーがスタートする。
1999年に発表されたコンセプトモデル、ビジョンSLRはオープンボディだった。つまり、今回デビューしたロードスターは、“より一層オリジナルモデルに忠実な姿になったSLR”といえる。ルーフを取り払ったSLRロードスターのルックスは、もともと特徴的なロングノーズのプロポーションがさらに際立つ。“スイングウイングドア”と呼ぶガルウイング式のドアを開き、納車時にはオーナーの体形に合わせたフィッティング作業が行われるというカーボンモノコック骨格を持つバケットシートに腰を下ろす。着座ポジションが後輪直前ということもあり、ボディの前端は文字どおり“はるかかなた”に見える。乗り込んだ瞬間から非日常性にあふれる点は、いかにもスーパースポーツカーらしい。
そんな気持ちの高揚感は、高いコンソールにマウントされた短いATセレクターノブ頂上に設けたフラップを開き、中に収納するボタンを親指で押してエンジンに火を入れた時点で、最高潮に達する。90度バンクを備えるエンジンブロックの最上部に、スクリュータイプのスーパーチャージャーをマウントしたAMG製5.4Lエンジンが始動。その瞬間に、フロントフェンダー後部の左右サイドに配置された4本のエグゾーストパイプから発せられる、低く迫力のあるサウンドが、周囲の空気をビリビリと振動させる。8気筒エンジンは、一般的には“スムーズな回転フィールの代名詞”と称される。が、このクルマのユニットには、その常識は当てはまらない。
Dレンジをセレクトすると、軽いショックとともに、エンジントルクが後輪へとエンゲージ。アクセルペダルを踏み込むと、想像以上のGフォースが体をシートバックへ押しつける。ドライ路面でも、ラフなアクセル操作を行うとトラクションコントロールが瞬時に介入。見方を変えれば、こうした最新の電子制御があってこそ、“600馬力を超える過給器付きエンジンとFRレイアウト”という組み合わせが可能になったといえる。
0→100キロ加速わずか3.8秒のデータが実感できる怒涛の速さもさることながら、SLRクーペと変わらないボディ剛性の高さにも驚かされた。カーボンモノコックボディの強靭さは、ルーフを省略した程度では、まったく損なわれてはいない。比類なき安心感の高さは、このクルマのハイライトのひとつでもある。
ハンドリング感覚は、クーペ同様の“人車一体感に富んだ軽快なフィーリング”というよりは、舵の利きがとことんシャープで、それが特有の刺激をもたらす、という印象が強い。いずれにしても、このようなモデルを意のままに操るには、まさにF1パイロット並みの超高度なドライビングスキルが要求されるに違いない。
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン・ロードスターは、車両価格(7000万円)だけ見ても、一般ユーザーには雲の上のような存在である。前述したちょっとやそっとでは手に負えないその底知れぬパフォーマンスもまた、スーパースポーツカーならではのカリスマ性を支える重要なファクターなのである。
2007年10月2日