橋本久義の「ものづくり街道よりみちツーリング」

我慢を知らない若者では勤まらない

 しかし、会社はそろそろ正社員を増やして技術やノウハウの伝承を図らないと、取り返しがつかないことになるのではないだろうか。

いやなことは我慢しなくてもよい?

 もっとも若者の方にも問題がある。「清潔な職場で、仕事が楽で、給料が高くて、転勤がなくて、テレビでコマーシャルを流していて、誰もが名前を知っているような企業以外はお断り」というような非現実的な条件で探そうとするから、なかなか希望の就職先が見つからない。当然と言えば当然だ。

 おまけに学校では、辛抱することを教育しない。だから、せっかく就職した若者も困難に出合うと(ちょっと怒られたり、注意されただけで…)すぐに辞めてしまう。昔は親も先生も「手に職をつけることが大切。技術を身につけるまで辛抱しろ」と教育したものだが、今は「いやなことは我慢しなくてもよい」と若者を甘やかす。テレビでも、「自分らしく生きることが大切」「無理して頑張る必要はない」などとのたまう評論家やタレントが少なくない。

 我々が学生の頃は、親の脛は全く期待できず、我慢して仕事をしなければ生きていけなかった。だが、最近は親の脛もそこそこ立派になってきて、かじりがいがある。若者は仕事を辞めても、親の脛をかじって生活できるから、すぐに困るわけでもない。

 だから若者は「もっと自分にふさわしい、素敵な職業があるはずだ」と考えて、仕事を辞め、青い鳥を探す旅を続けて、遂にニートになってしまう。そういえば、サラリーマン川柳の当選作に、「妻パート、俺は日当で、子はニート」というのがあったっけ。

仕事は決して楽なものではない

 そもそも、例外的に幸せな何人かの人を除いて、仕事はそんなに楽しいモノではない。テレビではいつも笑顔で幸せそうなタレントも、セリフは覚えなければならないし、不意に話を振られた時にも気の利いた返事をしなければならないし、「いつクビになるか」と心配して、ディレクターや事務所のスタッフに気を使い、目に見えない努力を要求される。

 タレント以外の人たちにとってみれば、テレビ局は3K職場そのものだ。時間は不規則、ディレクターに怒鳴られ、タレントには気を使う…。

 日本の将来のためには、若者を正社員にしたくなるように鍛え上げなければならない。そのためには若者に、もう少し「我慢」や「辛抱」を教え込む教育をしてもいいのではないだろうか。

Back
1 2
このコラムについて

通産省時代から全国の工場、中小企業をくまなく回り、技術者、経営者たちと交流を重ねてきた橋本久義氏が、日本のものづくりのあり方と将来を洞察、展望する。

筆者プロフィール

橋本 久義
政策研究大学院大学教授

橋本 久義

1969年東京大学工学部を卒業し通産省入省。鋳鍛造品課長、中小企業技術課長、立地指導課長、総括研究開発官などを歴任。当時から「現場に近いところで行政を!」をモットーに16年間で2600以上の工場を訪問。全国の中小企業の現場を訪れて技術者・経営者の意見を聞いてきた。94年埼玉大学教授、97年から現職。著書に『町工場の底力』『町工場が滅びれば日本が滅びる』など多数。オートバイには乗り始めてから約50年。通勤はもちろん、遠隔地の講演にもバイクを飛ばして駆けつける

こちらも読んでみませんか?
more

バックナンバー

記事・写真・図表の無断転載を禁じます。


この記事を

ほとんど読んだ
一部だけ読んだ
あまり読まなかった

内容は

とても参考になった
まあ参考になった
参考にならなかった

コメントする 皆様の評価を見る

コメント数: 6 件(コメントを読む)
トラックバック数:


読者が選ぶ注目の記事
more

アクセスランキング
more
NBonlineの情報発信