【バンコク藤田悟】ミャンマーの中心都市ヤンゴンで反政府抗議行動を取材中の9月27日、軍事政権の治安部隊に銃撃され死亡した映像ジャーナリスト、長井健司さん(50)が、銃撃の直後に現場から近くの路地に運ばれた際の模様を記録したビデオ映像を毎日新聞が入手した。映像には警察官がビデオカメラを持ち去る場面が写っており、長井さんが銃撃されるまで撮影し、その後返却されていないソニー製のカメラの可能性が高いことがわかった。軍事政権は長井さんの銃撃直前の状況が写ったカメラを押収しながら、意図的に隠匿している疑いが強まった。
映像は長井さんが銃撃された直後、デモ参加者の一部や負傷者らとともに銃撃現場から約20メートル離れた路地に運び込まれた後の様子を、アノーラタ通りをはさんだ向かいの建物から写している。撮影時間は約5分間で、撮影者とは別の人物がオリジナル映像を複写して国外に持ち出した。
映像はまず、約100人の市民が路地に押し込められる様子をとらえる。倒れるように折り重なった市民たちに兵士や警官が警棒や銃で殴りつけている。市民たちが次々と逃げ去った後、長井さんの遺体だけが路上に残された。
警官3人が長井さんの体に近づき、そばにあったストラップ付きのビデオカメラ1台を持ち去る。さらに約30秒後、別の警官が長井さんの体の後方からもう1台の別の銀色のカメラらしいものを持ち去った。
長井さんは銃撃された当時、手にしていたソニーのカメラと、予備用のキヤノンのカメラを身につけていた。しかし、現地入りしたAPF通信社(東京都港区)の山路徹社長に警察から返還されたのはキヤノンのカメラのみで、ソニーのカメラは返還されないままになっている。
ソニーのカメラには長井さんが銃撃された直前や瞬間の映像と音声が記録されている可能性がある。
◇当局の関与明白…山路社長
映像を見たAPF通信社の山路徹社長は「撃たれた胸の傷の位置が同じなので長井さんで間違いないだろう。路上に放置された状態で死者をぼうとくするような扱いだ。最初の警官が持ち去った1台目はストラップや形から、狙撃後も握りしめていたソニー製のカメラではないか。行方が分からなくなっているカメラは、この映像を見ると、治安当局が持ち去ったことが分かる。事実を究明しなければいけない」と憤った。【長野宏美】
毎日新聞 2007年10月9日 3時00分