医師不足により、駒ケ根市の昭和伊南総合病院(伊南行政組合運営)で産科が休止となる来年4月まで、半年を切った。里帰り出産の受け入れを中止し、近隣病院が受け皿になっても、このままだと同市を中心に年間100人の出産難民が出る見通しとされる。病院側は院内産院(院内助産所)の開設に向けた研究を続け、市民団体も自然分娩(ぶんべん)を呼び掛けるなど非常事態を乗り切ろうとする取り組みが始まった。組合側も医師確保のための制度づくりに向けて動き出した。
医療関係者の多くが地方都市で医師が不足する原因に挙げるのが、2004年に実施された医師臨床研修制度。医療の専門化が進む中で、プライマリ・ケア(基本医療)の基本的な診療能力(態度、技術、知識)の習得を目的に導入された。当初は総合的な医療の質の向上が期待されていた。
ところが、ふたを開けてみると卒後の医師が2年間の研修先に選ぶのは専門医がいて設備が整った大都市の大病院ばかり。県内の各病院に医師を輩出する信州大学でさえ、研修医を確保するのがやっとという状況になってしまった。
昭和伊南総合病院の千葉茂俊病院長は「これに加えて24時間態勢の重労働、すぐに訴訟につながることへの警戒感もあり産科医師の不人気が続いている」と指摘するように、こうした状況が診療科による医師の不均衡に拍車をかけた。
一方、国は人口30万―50万人に一つの割合で拠点病院(連携強化病院)を置き、医師を重点的に配置して医療の質を守りながら医療体制を確保する施策をとってきた。県では、産科・小児科医療対策検討会が「連携強化病院への医師の集約化・重点化の提言」を行い、信大はこれを受けて昭和伊南からの医師引き揚げを決めた。
こうした動きに対し、組合側は6月、地域の実情を踏まえた対応をするよう村井仁知事と大橋俊夫信大医学部長に要望。9月の2度目の要望で、中原正純組合長は「研修医受け入れに対する支援策も検討している」と、組合独自の医師確保策を講じる方針を明らかにした。
医師確保に向けて組合は、15日に開く臨時議会に1千万円を追加補正する議案を提出する。県外の医師が同病院に勤務した際、診療科を定めず研究資金の名目で一定額を貸与、規定の期間勤めることで返済を免じる制度。県が産科、小児科、麻酔科を対象に4月から始めた県医師研究資金貸与規定に準じる内容で、県制度と重複しないよう調整する。病院側は「これで30代から40代の医師に来てもらえれば」と望みを託す。
県は開会中の9月定例県議会で、院内産院の設置を支援する考えを示した。昭和伊南の強力な追い風となり得るのか―。県内にはまだ院内産院の施設はない。