中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 北陸中日新聞から > 北陸発 > 記事

ここから本文

【北陸発】

揺れた“母の心” 七尾の乳児殺害 被告公判で陳述

2007年10月8日

『家族に言えず、殺すしか…』

『かわいい顔、自分に似てる』

 妊娠を家族に言い出せないまま、自らの手でわが子の命を奪った。中絶はためらいつつも、妊娠中に殺意を固めた−。石川県七尾市で五月、生後間もない女の赤ちゃんを殺害、軽ワゴン車に放置したとして殺人などの罪に問われた母親の寺尾百合子被告(23)=同県中能登町=は裁判で、揺れた感情と事件の経緯を陳述した。「どうしていいか、分からなかった」とも。それでも、わが子のぬくもりに触れたわずかの間、母親としての感情が芽生えたという。求刑は懲役七年。金沢地裁の判決は十一日に言い渡される。 (報道部・前口憲幸)

 「とてもかわいい顔をしてた」。九月十二日の初公判。寺尾被告は弁護人から出産直後の状況を聞かれ、消え入りそうな声で陳述した。髪を後ろで結び、眼鏡にTシャツ。普通の若者に見えた。

 高校を卒業し、介護士として地元の老人ホームに勤めた。「世話好き」と評判だったが、出会い系サイトを頻繁に利用。携帯料金やパチンコで浪費し、消費者金融にも手を出していた。

 殺害した赤ちゃんも、出会い系で知り合った男性との間で身ごもった。体の異変に気付いたのは昨年十月。妊娠三カ月だった。一時は中絶を決意し、同意書に男性のサインをもらった。しかし「授かった命をおろそかにすることができない」と悩むうち、時間は過ぎていった。

 両親は昨年離婚し、病弱な母親と姉二人の四人暮らし。家庭の事情や自身の生活を後ろめたく思う気持ちも、妊娠を言い出せなかった理由だった。「病気の母に心配かけたくない」「家族があきれてしまう」。こうした思いが募った今年二月、「生まれてきたら殺すしかない」と決意した。

 五月十二日、別居していた七尾市内の父親宅の浴室で出産した。「アー」と精いっぱいの泣き声を上げる小さな体を抱き上げると、心臓の鼓動が伝わった。お湯をかけて体をふき、「自分に少し似ているな」と思った。

 しばらく見つめるうち、われに返った。「この子に満足な生活をさせてやれない」。右手で赤ちゃんの頭を持ち、洗面器の湯に押しつけた。

 娘を心配した父親は事件後、何度も弁護士事務所に足を運んだ。赤ちゃんを被告の長女として戸籍に記載もした。そんな父親は初公判の一週間前に急逝した。「亡くなった赤ちゃん、父さんのためにも生涯をかけて償っていく」。法廷での寺尾被告の言葉は、あまりに心痛かった。

 

この記事を印刷する

広告