社説(2007年10月8日朝刊)
[検定意見]
経緯を情報開示せよ
沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」への旧日本軍の強制・関与を削除した歴史教科書検定問題で、渡海紀三朗文部科学相が「記述の回復」について、完全に元通りにするのは困難だと述べた。
理由は、県民大会で決議した「検定意見書の撤回」が「検定への政治介入で制度を歪めることになる」からだという。本当にそうだろうか。
本紙の調べで、教科用図書検定審議会は文科省職員である教科書調査官の「調査意見」を追認しただけで、きちんと審議しなかったことが分かっている。
「申請図書は、別紙調査意見のとおり検定意見相当箇所がある」と指摘した初等中等教育局の原義書を考えれば、調査意見書の作成段階から文科省が一定の方向性を決めていた可能性も否定できないのではないか。
伊吹文明前文科相は「文科省の役人も私も、ましてや安倍首相(当時)も、一言の容喙(口出し)もできない仕組み」と述べたが、一連の動きは文科省による政治介入を疑わせるものになっているのである。
削除理由の一つとして引用された『沖縄戦と民衆』(大月書店)の著者である林博史関東学院大学教授は「『集団自決』は文字どおりの『自決』ではなく、日本軍による強制と誘導によるものであることは、『集団自決』が起きなかったところと比較したとき、いっそう明確になる」と記している。
林教授は、自らの著書を確認すればそれは明らかであり、なぜ調査意見書を提示した調査官はこのことを無視したのかと問うてもいる。
これでは教授が言うように、検定意見をつけるため都合のいい部分だけを抜粋したとみられても仕方がない。
疑わしいところがある以上、調査意見を付した経緯や審議会の審査方法について、国会はその詳細を明らかにする必要があるのではないか。
教科書検定制度は、教科書の記述に関する判断を第三者である教科用図書検定審議会に委ねることで、政治介入の防波堤にしている。
それが防波堤になり得なかったのは明白であり、検定意見を執筆者に伝える際、時間をとってその場で反論できるシステムになっていないことにも疑問が残る。
沖縄戦の実相を教科書に記述するかどうか、最後に判断するのは審議会である。
なぜ沖縄戦研究者の学説と異なる一方的な説を調査官が採用したのか。審議会は自らの責任でもう一度審査をし直し、検定意見を検証すべきだ。
社説(2007年10月8日朝刊)
[体育の日]
体動かし爽快な気分を
十月の第二月曜日は体育の日。一九六四年に開かれた東京オリンピックの開会式を祝い、六六年に設定された「十日」の祝日が替わったのは二〇〇〇年だ。「ハッピーマンデー法」で、土曜日から続く三連休でスポーツなどを楽しみやすくしようとの意図がある。
きょうは県や市町村の運動公園や施設などで、体力測定や健康管理のための多彩な催しが実施されるはずだ。
場所によって、正しいウオーキング法やジョギングの仕方、無理なく体を動かす方法を教えてくれるにちがいない。親子、夫婦、仲間連れで出掛け、一緒に体を動かすことで自分の体力を確かめてきたい。
各地の公園、歩道では朝夕、老若男女がウオーキングを楽しむ姿が目立つようになってきた。それだけ健康を意識する人が増えたということだろう。
だが、〇六年に内閣府が調査した「体力・スポーツに関する世論調査」によると、普段、運動不足を「感じる」と答えた人が67・6%もいる。
内訳は「大いに感じる」が26・7%、「ある程度感じる」は41・0%。「感じない」という人は31・9%だった。
年齢別に見ると、運動不足と感じる人は二十代から四十代に多く、逆に感じていない人は六十代、七十代以上で高い。働き盛りに運動不足と思っている人が多いのは、やはり気になる。
沖縄は、肥満の割合が男女とも二〇〇〇年度から五年連続で全国ワーストという記録もあるからだ。
メタボリック症候群や予備軍が多いということでもあり、バランスの取れた食生活はもとより適度の運動が求められるのは言うまでもない。
子どもの運動能力について調査している順天堂大学の内藤久士准教授は「運動をしない生活習慣が定着している」と分析する。ゲーム機やパソコンに熱中する子どもたちをどう運動に導くのか。大人も考えていく必要がある。
これから日一日と吹く風もさわやかになる。秋空の下でキャッチボールを楽しみ、ウオーキング、テニスなどで汗を流し爽快な気分を味わいたい。
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