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法テラス:地方の弁護士不足解消に貢献 電話相談に課題

事務員とスケジュールを打ち合わせる浦崎さん。多忙で新規相談予約が1カ月先になることも=坂本高志撮影
事務員とスケジュールを打ち合わせる浦崎さん。多忙で新規相談予約が1カ月先になることも=坂本高志撮影

 国民の日常的な法的トラブルの解決を手助けする「日本司法支援センター」(法テラス)が昨年10月のスタートから1年を経過し、業務実績を公表した。過疎地などに勤務するスタッフ弁護士は当初の約20人から5倍近くに増え、地方の弁護士不足解消に大きく貢献。だが、中核事業のコールセンターへの電話相談は、目標を大きく割り込むなど、課題も残る。【坂本高志】

 地方事務所などで法律相談に当たる常勤のスタッフ弁護士は、司法修習を終えた人を直接採用する制度を導入し、当初目標の60人を上回り、今年度中に98人を確保できる見通し。国選弁護の対象が大幅拡大する09年段階で、日本弁護士連合会が目標とする300人も「達成できそう」(寺井一弘常務理事)だ。弁護士がほとんどいない過疎地の「弁護士ゼロ・ワン地域」も劇的に解消された。スタッフ弁護士の活動については「民業圧迫」と否定的な弁護士会もあるが、佐渡法律事務所の冨田さとこ弁護士は「多重債務事件など、地元の弁護士がフォローしきれない仕事が多く、弁護士業務の掘り起こしに役立っている」と話す。

 一方、コールセンターへの相談は23万5593件で、想定していた100万件の4分の1程度だ。担当者は「コールセンターの周知がまだ不十分」と認める。九州の地方事務所の相談員は「利用者は情報提供や他機関への橋渡しだけでは満足してくれない」と、機能強化を訴える。

 コールセンターの番号を活用し、1日から裁判員制度に関する質問を受け付けている。来年秋以降に予定される刑事裁判への犯罪被害者参加制度の下では、被害者を補佐する公的弁護人をあっせんする業務も検討されている。

 ▽法テラス 法務省所管の独立行政法人に準じる組織で政府が全額出資する。電話での相談機関の紹介▽刑事被告人に国選弁護人を指名▽弁護士が少ない離島などの司法過疎地対策▽犯罪被害者支援--などが業務。事務所は全都道府県庁所在地と過疎地など全国86カ所にある。スタッフ弁護士は3年の任期制。コールセンターは(1)一般向け=0570・078374(2)犯罪被害者専用=0570・079714。

 ◇実際の仕事はひっきりなし

 「今までこの島の人たちはどうやってトラブルを解決していたんだろうと思います」。1年前まで常駐の弁護士がゼロだった長崎県壱岐市。浦崎寛泰さん(25)は昨年10月、東京・池袋の法律事務所を辞めて、過疎地対策に取り組む法テラスのスタッフ弁護士として赴任。人の良さそうな丸顔に、あごひげが現代の若者風だ。

 玄界灘に浮かぶ人口約3万2000人の離島。裁判所はあるが、法廷は一つしかない。地裁の裁判官は対馬から2週間に1度やってくるだけで、法テラス本部も当初は「事件数が少ない」と事務所開設に消極的だった。

 だが、実際の仕事はひっきりなしだ。多重債務、国選の刑事弁護、DV被害。取り立ての電話におびえる主婦の代理人になったことをヤミ金業者に伝えると、督促はぴたりとやんだ。「夫にも言えずに法外な利子を払っていた人から、『今まで相談できる人を待ってました』と言われる。事件数が少ないのではなく、埋もれていただけ」と語る。深夜まで事務所の明かりが消せないのは東京と同じだった。

 一昨年、岐阜県の実家の母親が脳梗塞(こうそく)で倒れ、全面介護が必要になった。今も2人の妹と祖父母が病院に見舞いを続けている。東京で働いていた時に比べ収入も恵まれず、法テラスが公的予算で運営されている以上、事務員の増員なども制約がある。悩みはあるが、デビューしたての「新米弁護士」が昨年10月以降1年で計329件のさまざまなトラブルに対応できたことが誇りだ。「誰かに必要とされていることが直接実感できる、ぜいたくな環境に置かれています」と笑った。【坂本高志】

毎日新聞 2007年10月6日 19時00分 (最終更新時間 10月6日 19時13分)

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