生命保険各社が発表した過去五年間の保険金不払い額は九百億円を超えた。契約者はあきれている。各社は最後の一件まで調べ支払わなければならない。金融庁は厳重処分に踏み切るべきだ。
かつて国際金融市場で「ザ・セイホ」と敬意をもって呼ばれた日本の生保業界。巨大な資金力は現在も変わらないが、最近の相次ぐ不払い問題で信頼感は地に落ちた。今回の調査も対象件数が多かったため、金融庁に今秋まで期間延長を認めてもらっていた。
二〇〇一−〇五年度の不払い額は最大手の日本生命が約百三十四億円、第一生命が約百八十九億円、住友生命は百五十八億円強、明治安田生命約百十五億円と大手四社だけで五百九十七億円以上になった。各社合計でも今年四月に比べて倍増した。
増加したのは脳卒中、がん、心筋こうそくの三大疾病特約と、重度の障害が残った場合の高度障害保険金の不払いが多数あったためだ。これらの保険金は百万−一千万円以上と高額である。営業職員らが契約内容を日常的にチェックしていれば、支払い漏れは起こらなかった。
件数が急増したのは失効した保険を解約する際に発生する「返戻(へんれい)金」などを掘り起こしたためだ。日生は五千人程度の職員を動員して取り組んだという。その努力は認めるが、最初から処理していればこんな無駄な作業はいらなかったはずだ。
それにしても巨額の不払いには驚かされる。生保会社はどうしてこんなぶざまな姿になったのか。
根底にはやはり過去の営業優先経営や現場でのノルマ主義、縦割り組織の弊害である社内検査・監督機能の低下などが挙げられる。不払い問題で〇五年二月、金融庁から最初の業務停止命令を受けた明治安田生命はそうした典型的な会社だった。
もう少し原因を突き止めていくと「請求主義」に行き着く。保険金は契約者から請求を受けた契約について支払う−という原則だが、営業職員も本社も支払いには抑制的だった。これからは契約者(国民)の利益を最優先にすべきだ。それが生保会社の利益につながっていく。
生保が信頼を取り戻すには保険商品の統合や契約者への丁寧な情報提供など、再発防止策の徹底が欠かせない。社内検査体制の再構築と全社員への教育も必要である。経営トップの誠実な姿勢こそ出発点だ。
金融庁は今回の調査結果を厳しく受け止めるべきだ。これまでは不祥事が発覚するたびに個別に処分してきた。今回は業界全体の問題だ。生保の再生は喫緊の課題である。
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