一カ月前、奈良県で救急搬送された妊婦が、病院に受け入れを次々と断られ死産した。一刻を争う救急車内で起きた悲劇を思うと、胸が詰まる。
当直時間帯に産科医がいない病院が増えていることや、早産などで生まれた赤ちゃん用のベッド数が足りないなど、さまざまな要因が挙げられたが、根底には医師不足の問題がありそうだ。
医師不足は奈良県に限らず、多くの自治体が抱える悩み。へき地の診療所はもちろん、地方では中核となる病院ですら「勤務医が足りない」と聞く。中でも、不規則で過酷な勤務を求められ、訴訟リスクが高い産科と小児科は深刻だ。
医師不足は地域格差にもつながる。厚生労働省によると、岡山県の人口十万人当たりの医師数は約二百五十人。北海道や東北地方に比べ安定しているが、多くの医師は都市部に集中する。過疎化にあえぐ中山間地では産科・小児科医の着任、救急搬送体制の整備を求める声が少なくない。
今月下旬、岡山市で開催される日本遠隔医療学会学術大会は、そうした地域格差をなくし、医師不足を補うことがテーマの一つ。中山間地や離島に暮らす患者と、都市部の大病院をICT(情報通信技術)で結ぶという診療モデルに、期待が高まりそうだ。
もちろん、地域格差は医療に限った話でなく、雇用や教育、娯楽まで含め多岐にわたる。本紙「医療・健康」「くらし」面でも都市部偏重に自戒の思いを込め、山あいの隅々まで広く地域の声を反映できる紙面づくりを心掛けたい。
(文化家庭部・赤井康浩)