「土に変化があり、味わいがある。備前は火と土の微妙な関連によって、間然するところなき美をもたらす」(「魯山人陶説」より)。美食家として知られた陶芸家・北大路魯山人は晩年、備前焼に関心を示し、鎌倉の自宅に備前焼の窯を築いた。
一九五四年、窯たきの応援に、三十歳だった備前焼作家が赴く。彼が陶土をひとつかみ引きちぎったのを見て、魯山人は無造作できっぱりした土の扱い方に感心したという。
村山武著「やきものの風景」にある。魯山人をうならせた作家の名は藤原建さん。備前焼の人間国宝、藤原啓のおいだ。次代を担うと嘱望されながら、五十三歳の若さで逝った。
没後三十年を記念した回顧展が岡山市の黒住教本部宝物館で来年一月二十七日まで開かれている。花入れ、壺(つぼ)など約五十点。洋画家の中川一政や小林和作が刻画した皿も並ぶ。豪放さと繊細さが融合した作風は味わい深く、鮮やかな窯変、包み込むような緋(ひ)色が印象的だ。
傑出した三人の師に恵まれた。備前焼中興の祖、人間国宝の金重陶陽から気品と端正、叔父の啓から詩的センス、魯山人から用の美学を学び、異彩を放つ独特の世界を編み出した。
八十トンもの土で黒住教本部大教殿の屋根を飾る千木(ちぎ)や鰹木(かつおぎ)を焼いたのもこの人。無類の酒好きでもあった。秋の夜長、“未完の大器”をしのびながら、一献傾けたくなった。