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大阪出身の兵隊は弱かったのか? 「またも負けたか八聯隊」俗謡のウソを論証する

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【PJ 2007年09月17日】− 昔、こんな俗謡があった。ご年輩の方には懐かしいと思われるかもしれない。

またも負けたか八聯隊(はちれんたい)、それでは勲章九連隊(くれんたい)、 敵の陣屋も十聯隊、大阪鎮台(ちんだい)ヘボ鎮台

 旧日本軍の時代、大阪の兵隊が商人や町人から徴募されたことから、ソロバンより重いものを持ったことがないとやゆされ、ひいては大阪人があたかも「ひ弱」であるかのようにからかうときに今でもときどき乱用されている。

 私の手元に、かつて旧歩兵第八聯隊に所属されていた方の自費出版本「大阪と八連隊」のコピーがある。この本で著者は「またも負けたか」の俗謡が、実は全く根拠のないことであることを論証しておられる。

 明治維新後、それまで地方の各藩が持っていた軍隊は日本国の軍隊として再編成され、師団の前身である「鎮台」が置かれるようになった。大阪に鎮台が置かれたのは明治4年8月。俗謡にうたわれた歩兵第八聯隊(以降、8連隊と表記)は明治7年5月14日に編成完結。

 当時、大阪以外の鎮台には士族出身者が多く定着していたが、大阪鎮台には士族出身者は少なく、商人・町人・百姓出身者が大半を占めていた。

 明治10年に起こった西南戦争には8連隊も動員された。九州の各地を転戦し、明治天皇から「勇戦劇闘ご嘉賞」の勅語をたまわるほどの戦果を挙げている。ちなみにこれは全日本陸軍の歴史上空前絶後の快挙であって、後年、軍司令官クラスが各部隊にしばしば授与した感状よりはるかに価値の高いものである。

 にもかかわらず、戦果を挙げた8連隊が「弱い兵隊」としてやゆされるゆえんはいったいどこにあるのか。またも負けたかの俗謡について、まずは「そもそも8連隊は、いつ、どの戦闘で負けたのか」ということを検証しなければならない。

 大阪に置かれていた師団は第4師団で、れっきとした現役の野戦師団である。訓練の内容も課目も、全国の陸軍部隊となんら変わることはない。ただ商人の子弟が多かったという事情もあって、いわゆる「賢い」人が多くいたようだ。本来ならば自隊充足が原則の下士官を志願する者が少なく部隊の必要数を確保できないため、不足の人員を九州や東北の師団から転属させることがあった。

 朴訥(ぼくとつ)で実直な九州・東北出身の下士官に対し、頭がよく口が達者な大阪の兵隊が抗弁することもしばしばあったらしい。

 8連隊は創設間もない明治7年には「佐賀の乱」に出動し、明治10年には「西南戦争」で九州各地を転戦して明治天皇から勅語をたまわるほどの戦績をおさめたにもかかわらず、どうもこのころあたりから「またも負けたか8連隊」の俗謡が民間で広がり始めてい。

 その俗謡の存在は8連隊の将校たちもよく知っていたが、いかんせん出どころが分からない。いつの間にか「弱い部隊」と決め付けられた連隊の将校をはじめ下士官・兵たちは、俗謡の悪宣伝を打ち消すため猛訓練に明け暮れたことが連隊史にも残っている。その後、第2次大戦の終戦にいたるまでの戦歴をみても、部隊として戦闘に破れた記録は見あたらない。

 唯一「負け戦」とこじつけることのできる戦闘があったとすれば、やはり後にも先にも西南戦争以外には見当たらないといわれている。薩摩隼人が白刃をかざして斬り込んでくるのを目の当たりにしては、商人や町人出身の兵隊がたじろぐのは、むしろ当然ではなかったか。九州・小倉に駐屯していた歩兵第14連隊、すなわち乃木希典が率いる部隊でさえ軍旗を奪われているほどである。ことさら大阪の兵隊だけが「弱い」と非難される筋合いはない。

 結局「またも負けたか8連隊」の俗謡が発生した時期は、西南戦争のころであっただろうと推測されるだけで、決め手となる確証は得られていない。おそらく将来においても、この俗謡の発生源が確定されることはないだろう。かくのごとき人のうわさとはいい加減なもので、人は真実を信じているのではなく「面白いもの」「信じたいと思ったもの」を信じているに過ぎないのだという側面を物語っている。

 言論統制の厳しかった時代にも雑草のごとく生き残ったこの俗謡が広く世間に知られることになったのは、皮肉にも軍隊が解散した戦後の時代だった。言論や出版が自由になり、心無い文筆家が真偽を検証することを怠り、伝聞だけで書いた一言が雨後のたけのこのように伝播されてしまった。

 結論を申し上げると、旧陸軍歩兵第八聯隊は(個々の戦闘では)負け戦を経験していない精強な部隊であった。

またも負けたか八聯隊、それでは勲章九連隊、 敵の陣屋も十聯隊、大阪鎮台ヘボ鎮台

 この俗謡はたんなる数字の語呂合わせであって、まったく根拠がないのである。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 平藤 清刀【 大阪府 】
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