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2007年10月7日

 廃刊した世界的写真雑誌「ライフ」が、ベトナム戦争さなかの一九六九年、ある週に戦死した米国兵二百四十二人ほとんどすべての顔写真のみを載せ、大きな反響を呼んだ

取材網を総動員して集めた顔写真は粗末なものが多く、下層階級の若者たちの短い人生が写し出されていた。当時の編集長は、在任中この仕事ほど重要で影響のある企画は二度となかったことに胸の痛みを覚えたという(ハルバースタム「メディアの権力」)

今年の能登半島地震では倒壊寸前のわが家から、いの一番に先祖の遺影を運び出し、仮設住宅に「避難」させた人もいる。洋の東西を問わず、結婚や入学の記念撮影は家族の節目を飾る大切な儀式であり、そんな思い出が焼き付いた写真を遺影として使うこともある

電車に遺骨や位牌(いはい)を忘れる人もいるご時世だからだろうか、金沢市内のごみ置き場に遺影が捨てられていた。人知れぬ事情があったのかもしれないが、フライパンや食器とともにごみ袋に入れてあったというからやりきれない

せめてもの救いとして、何とか供養をと腐心した町会の人たちの心根に、まだ捨てたものでない金沢の人情を見る。


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