
vol.249
インタビュー
3rd album『内部告発』が大反響!
般若(妄走族)
「日本のHIPHOPはまだ誰も出口を見つけてない。
だから、オレがその扉を開けたいって思ってる」
ハードコアHIPHOP集団・妄走族の“一番鬼”と異名を取るMC・般若が、またしてもシーンに風穴を開けた。大ヒットシングル『オレ達の大和』も収録されたサードアルバム『内部告発』が、HIPHOP界を超えた反響を巻き起こしているのだ。全12曲に特濃リリックをつめ込んだ張本人は、「賛否両論だよね」と淡々とした表情で語るものの、その最新作には確実な手ごたえを感じている。
「まだ満足ってわけじゃないけど、今までの中では最高のデキ。トラックに関してもウザいぐらい注文出して、統一感を出せたと思うし。『オレ達の大和』はもう別世界だね。これは出す出さないで作った曲じゃないし、この先10年、20年経っても思い入れできる曲になったことは間違いない。“大和”っていう題材を歌にできてリリースできて、この国のみんなの耳に届けられたっていうのは本当にありがたいですよ。オレはふざけた人間だから、普通はどっかしら曲にふざけた部分が入るんだけど、この曲ばかりはふざけらんなかったね」
インタビューに答える般若は、ルックスからして昔の東映映画に出てきてもおかしくないような「日本の男前」といった風情を漂わせる。自らを称して「昭和の残党」。ジャケット写真のモチーフが「3億円事件」実行犯のモンタージュ写真というところにも、般若イズムが全開している。
「オレはHIPHOP界のコイツ(実行犯)になりたい。3億円事件ってオレが生まれる10年ぐらい前のことだけど、子どものころから頭に残ってた。それに強奪した金が使われてないっていうじゃないですか。そのへんがリアルだと思ったし、コイツは金だけじゃなくてリスペクトも欲しかったのかな――って思ったから勝手に自分とシンクロさせた。それにしても、自分で作っといていやな写真になったと思いますよ。どっから見ても目が合うっていう、モナリザみたいな状況になってるから(笑)」
アルバムの中で吐き出されたリリックの大半を占めているのは、タイトル通りの“内部告発”。『理由』『履歴書』をはじめ、切れ味鋭い“言葉の刃(やいば)”は今回、自らのノド元に向けられた。
「相当、自分の中でダメ出しした。レコーディングの肉体的な作業は1カ月ぐらいだったけど、精神的には半年ぐらいかかったかな。やっぱり、派手さを求めるより内面を表現していくほうが重要。そこがオレのHIPHOPであり、表現方法なんだって思った」
3作目にして、一段とリリック、フローに込める感情の“密度”が増した般若。『根こそぎ』からわずか1年。彼の“進化”のスピードは、驚異というほかないだろう。
「“大和”との関わりもそうだけど、フロントアクトで長渕さんの武道館公演に出させていただいたりして、違うジャンルで楽曲を披露する機会が増えたことが大きかったかもしれない。HIPHOPの畑では通じても武道館では通じないものだったり、逆に曲げちゃいけないものが具体的に分かったから。そういうことを自ずと意識して、一曲一曲、作品に落とし込んでいったところはあるかな」
『内部告発』は「次の段階へ進むためのアルバム」と語る般若は5月2日、渋谷DUOで自身初のワンマンライブを控えている。その名もズバリ『LIVE告発』。
「これをやってアルバムが完成すると思ってるから、今はそこに向けて集中してる。やっぱり、いずれは自分名義で武道館をやりたいと思うし、もっと自分を広げて、もっと音楽シーンに食い込んでいって、HIPHOPを中心に持ってかなきゃいけない。HIPHOPの世界って入り口は広いけど、出口はまだ誰も見つけてない。だから、オレがその扉を開けたいっていう思いはあるね」
“一番鬼の第二章”は、ここから幕を開けることになりそうだ。
「オレがいる限り、東京をこれ以上変にはさせない」
東京の街で育った般若。この街に対する思いは深くて強い。
「子どものころは気付かなかったけど、相当、特殊でおかしな街だよ。今は時間の流れも早いし、だんだん無機質にもなってる。だけど、オレはここで育ってるから。東京に対する愛憎は、これからも増していくんじゃないかと思う」
その“愛憎”が色濃く出ているのは『ペットショップ』という一曲。ここではアンダーグラウンドから成長してきたクラブカルチャーへの“バッシング”を進める体制や首長へ、手厳しいメッセージを叩きつけている。
「クラブにいる人間すべてが悪いわけじゃないし、健全に楽しみに来てる人のほうが多いっていうことを単純に言いたかっただけ。なんでみんな、こういう曲を出さないんだろうって思うよ。オレは2枚目のアルバム出した時から曲にしようって決めてたから」
渋谷、三軒茶屋を中心に、ストリートから文字通りのし上がってきた般若。その“根っこ”があるだけに、「東京代表」の矜持は揺るぎない。
「オレは幸せですよ。こういうことをやりたくても、やれない連中はいっぱいいるし。だから、まだまだ終われない。今はいろんな奴が出てきてる。だけどオレがいる限り、東京をこれ以上変にはさせないって思ってるよ」
(文/本紙・小池龍之)
『内部告発』 発売中 2625円(税込) 妄レコーズ AVCF-22605
|