チバテレビなどUHF局で“ひっそりと”放送されながら、熱い支持を集めて続けているアニメ「魔法少女リリカルなのは」をご存じだろうか。04年から放送が始まったシリーズは現在放送中の「Strikers」で3作目。人気の原作や有名プロダクションの作品ではないが、インターネットを中心に話題が広がり、テーマ曲はチャートの上位をにぎわせ、マンガの祭典「コミックマーケット」でも大人気となるなど、コアファンの心をがっちりつかんでいる。「なのは」の“マジカル”な人気の秘密を探った。【渡辺圭】
■始まりは美少女ゲーム
04年10月、「魔法少女リリカルなのは」の放送が始まった。 主人公・高町なのはは、喫茶店を経営する両親と、兄姉とともに平凡な生活を送る小学3年の女の子だ。ある日、なのはは、けがをしたフェレットを助ける。フェレットは、異世界「ミッドチルダ」からやってきた少年「ユーノ・スクライア」で、世界各地に散らばってしまった「ジュエルシード」と呼ばれる異世界の魔法技術の遺産を再び取り戻すために、人間の世界にやって来たと明かした。なのはは、ユーノから「魔法の力」を授けられ、「ジュエルシード」集めを手伝うことになる。ところが、なのはの前には、やはり「ジュエルシード」集めをしている魔法少女フェイトや、謎の敵が現れ、魔法を駆使した壮大な戦いが始まる……という物語だ。
「なのは」は、00年に発売されたPC用美少女恋愛シミュレーションゲーム「とらいあんぐるハート3~Sweet Song Forever」(とらハ)の中で、架空のテレビアニメとして登場したタイトルだ。「とらハ」のオリジナルビデオアニメ(OVA)にも、ミニシナリオとして収録され、ファンにも好評だった。制作スタッフが、原作の都築真紀さんを中心に、テレビアニメを作ろうと企画した際に、「なのは」のスピンオフのアイデアが生まれた。
「とらハ」OVA制作に参加し、「なのは」のプロデューサーを務めるキングレコードの三嶋章夫さんは「原作など無いに等しい、ゼロからのスタートでした」と振り返る。周囲からは「無謀だ」と言われ、アニメ専門誌への売り込みも全く相手にされなかったという。それでも三嶋さんは「多難な道のりでしたが、都築さんやスタッフの情熱を感じていたので、『なんとかなる』と信じていました」と制作をスタートさせた。
■「ベタで行こう」
アニメ化に当たって、都築さんを中心にスタッフがこだわったのは、「ベタで行こう」というキーワードだった。昔は王道だった「魔法少女」というタイトルと、正義感の強いなのはの熱いバトルをしっかりと描くことを重視した。
ようやく完成した「なのは」はが放送されたのはUHF局系の深夜帯だった。だが、第1回の放送直後、コアなアニメファンたちが「『なのは』見たか?」とネットであいさつ代わりに使うほど話題に上ったという。制作側の狙い通り、かつて「魔法少女」ものや、「熱血」もののアニメを見ていた20代後半から30代のアニメファンの心をつかんだ。「こういうアニメが見たかった」「今時、『魔法少女』とタイトルにつけるなんて」という声が多かったという。
■“ダブル主役”が盛り上げ
ヒットの原因として忘れてはいけないのが、主役のなのはを演じる田村ゆかりさんとライバル・フェイト役の水樹奈々さんという二人の人気声優のキャスティングだ。
二人とキングレコードで歌手として一緒に仕事をしてきた三嶋さんがこのキャスティングを決めた。ダブル主役のような形で、二人がライバルとして競い合うという展開が、声優としても人気を分ける田村さんと水樹さんの関係を思わせ、三嶋さんも「本人たちも自分の内面を投影して演じている」というように、声優ファンの間でも盛り上がっていった。アニメ専門誌もページ数を徐々に増やすようになっていった。05年1月に開かれたDVD発売記念イベントでは、1200枚のチケットは1時間で完売。その後も人気は高まり、通常巻数が進むごとに落ちていくDVDの売り上げも、1巻と最終巻がほぼ同数という根強さで05年10月に第2シリーズ「魔法少女リリカルなのはA’s(エース)」が放送された。
さらに、二人が交互に担当したオープニング曲とエンディング曲も大ヒット。特に、水樹さんが歌う第2シリーズのオープニング曲「ETERNAL BLAZE」は05年10月25日付のオリコンシングルチャートで初登場2位を獲得。水樹さんは人気音楽番組の「Hey!Hey!Hey!」(フジテレビ系)にも出演し、番組内で「なのは」の一部が放送されると、一気に知名度が高まった。歌詞には12話のせりふの一部がそのまま使うなど、アニメと連動した楽曲づくりも「なのは」の人気に拍車を掛けていった。
■成長したなのは、そして…
さらに「なのは」で特徴的なのが、「コミックマーケット」での人気ぶりだ。 原作者の都築さんは、コミケの同人活動から、プロになったクリエーターで、三嶋さんが「、がい旋のつもりで出てみよう」と05年夏、コミケに軽い気持ちで出展した。そこでは、オリジナルグッズを求めるファンが殺到し、大行列ができた。同じくコミケ出身で、「月姫」「フェイト/ステイナイト」で知られる「タイプムーン」の武内崇さんが、自身の日記や雑誌で「なのは」を絶賛。その後のコミケでも「なのは」のブースは常に人気で、“コミケの主役”級の作品となった。
そして、07年4月から放送された第3シーズン「ストライカーズ」では、19歳のなのはが登場し、後進の魔法少女を育てる立場に回るという大胆な設定変更がなされた。
「『なのは』は、ファンがあれこれ言い合いながら作品の外堀を埋めてくれるので、毎回毎回放送開始後のネットでの議論が楽しみなんです。第3シリーズでは、大きな方向転換に驚く人も多かったようですが、魔法少女たちの熱いバトルは引き継いでいるので、おおむね好評です」という。
なのはが育てる魔法少女たちの活躍を中心に描いた第3シリーズだが、9月末放送の最終回で大団円を迎える。三嶋さんは「なのはの見せ場もきっちり用意したので、ファンには納得してもらえる自信はある。その後のネットでの反応が楽しみ」と話す。
今後の展開について、「まずファンの声を大切にしたい」といい、「このままでは終われないという気持ちはある。何かが起こるのを信じて待っていてください」と明かしてくれた。なのはは次にどんな魔法を見せてくれるのか、楽しみだ。
2007年10月2日