山口組の変容 −宅見組長射殺から10年

上.勢力拡大 (2007/08/29)

統制強化、警察に対抗

歴代組長の供養塔が完成し、直系組長ら100人以上が集まった。新執行部への「忠誠」を示す儀式でもある=昨年8月、神戸市灘区内

 八月中旬、指定暴力団山口組幹部の誕生会が兵庫県内の飲食店で開かれ、傘下の組長らが集まる―との情報が兵庫県警に寄せられた。捜査員が裏取りに奔走したが、確認できなかった。五月にも五代目組長の親族の結婚式情報が入ったが、結局、空振りに終わった。

 「またか」。六代目体制に入り、こうした真偽の確認が取りにくい情報が出回るようになった。何のためか。

 「警察への密告者を洗い出す情報操作の可能性がある。“謀反者”の芽を早めに摘むことが、宅見元組長射殺につながった内部対立を避ける危機管理と考えているのではないか」と捜査員は分析する。

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 二〇〇五年八月に発足した司忍(本名・篠田建市)六代目組長=服役中=と高山清司・若頭の新体制。名古屋市を拠点とする弘道会の前、現組長で、山口組のナンバー1、2の両方を、兵庫県以外の組の幹部が占めるのは初めてだ。

 五代目体制と大きく異なるのは、組織内部の情報統制の強化。傘下組織に「(警察官と)会わない」「(組事務所に)入れない」「(犯人や情報を)出さない」の“三無(ない)主義”を徹底させ、違反者には、破門など厳しい処分を科すという。このため、組員が警察の出頭要請に応じない▽逮捕されても組員と認めない▽組織のことを話さず、取り調べ中の会話をメモする―などのケースが増えている。

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 「江戸幕府の政策と似ている」。捜査当局のある幹部は、新体制をこう評する。

 新執行部は、服役を終えた末端組員の祝い会や法要などの「義理掛け行事」を頻繁に開催し、全国から直系組長を招集。幹部クラスには毎朝、神戸市灘区の総本部に“出勤”させている。

 上納金以外にも祝い金や交通費を負担させ、天然水や雑貨品を半強制的に購入させている、との情報もある。これらは、参勤交代などで忠誠心を測る江戸幕府の統制手法に重なる、という訳だ。

 「シノギ」(資金獲得活動)すら苦しい組も多い中、こうした“負担”に耐えられない組も続出。高齢の組長に世代交代を促す動きもあり、新体制発足後、最大百一人いた直系組長のうち八人は、破門や引退で組を離れた。

 一方で弘道会の組員数は増えており、五代目組長の出身母体で最大派閥の山健組(神戸市中央区)は組員数を減らしている。

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 宅見組長射殺事件以降、抗争時に組事務所の使用制限ができるよう暴対法が強化され、民事裁判で組長の使用者責任を認める判決が相次いだことを受け、新執行部は表向き「平和外交」を重視。昨年の抗争事件は、初めて「ゼロ」になった。

 東京での利権確保のため、国粋会(東京)を吸収。山口組と対立していた関東や中国・四国地方などの指定暴力団約十団体と友好関係を深め、他団体幹部の葬儀などにも積極的に参加する。

 ある捜査員は国粋会吸収を例に挙げ、「友好関係を結んで、抗争のリスクを回避しながら、もめ事に乗じて乗っ取る外交手法だ」と説明する。

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 一九九七年八月、神戸市内のホテルで山口組の元最高幹部、宅見勝・宅見組長=当時(61)=らが射殺された事件は二十八日で丸十年を迎えた。事件以降、暴対法の強化や暴力団排除運動は進んだが、山口組は活動を潜在化させながら肥大化。構成員、準構成員合わせて約四万人と、全国の暴力団員の半数を占める。六代目体制が発足してから二年。山口組は変容を続けている。

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