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2007年10月6日

◎金沢・広坂交通実験 「歩けるまちづくり」の弾みに

 石川県が金沢市広坂一帯で始めた一方通行規制の交通実験は、金沢城公園や兼六園、広 坂緑地、金沢21世紀美術館などが集積する都心の空間を、より歩きやすい環境に変えるための意義ある試みである。県都の真ん中での実験が実を結めば、まちなかで一方通行をさらに拡大し、「歩けるまちづくり」を推進する大きな弾みとなろう。

 県庁があった時代は往来する車も多く、周辺道路を一方通行にする発想はおそらく浮か ばなかったに違いない。県庁移転後、広坂一帯は広坂緑地の整備が進み、金沢城の石垣が広坂通りからも見渡せるなど一体感が強まった。交通規制の実験がやりやすくなったのは、緊急車両が出動する中央消防署広坂出張所が移転したことも大きいだろう。

 広坂一帯は今後、旧県庁舎本館の保存整備や、宮守(いもり)堀の水堀化などが予定さ れている。周辺道路の交通量をどのようにコントロールするかは、この場所を魅力ある回遊空間に整備していくうえで避けて通れない課題である。

 県は迂廻(うかい)車両を含めた交通量調査で実験の有効性を確かめることにしている が、交通量の変化の視点だけでなく、この空間をどのように生かすかという将来ビジョンも考慮に入れながら最善の策を講じる必要がある。さらに言えば、「歩けるまち」の楽しさを県都の真ん中から発信できれば、市民の関心を促すことにもつながるだろう。

 山出保金沢市長は金沢経済同友会との意見交換会で、年明けから市、住民、警察による 校下単位の検討会を順次組織し、都心で一方通行や歩行者専用道路を拡大する方針を示した。できるところから早く検討会をつくってもらいたいが、これまでは一方通行にしたくても住民の理解が得られず、規制に踏み切れないケースも出ている。

 城下町特有の不規則な町割りや曲がりくねった道が残る旧市街などでは道路整備にはお のずと限界があり、安心して安全に歩ける環境をつくるには、一方通行などの規制をうまく生かしたソフト面の交通施策が重要になってくる。住民の理解を広げるために、まずは交通実験でさまざまな影響を実際に確かめてみるのも一つの手であろう。

◎鳥インフル研究 期待したい日本の貢献

 鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)が変異を重ねると、人間に感染しやすい性質 を持つようになり、世界的な「新型インフルエンザ」の大流行が起きると心配されている。が、その前兆や刻々の段階を、ウイルスの変異を手掛りにしてモニターできるようになれば、早期に対策を講じることができるわけだ。

 そこへ東大医学研究所の河岡義裕教授を中心とする日本とベトナムの国際チームが、そ のモニターに使える重要な変異の特定に成功し、米専門誌「プロス・パソジェンズ」に発表したとのニュースが飛び込んできた。大流行を防ぐことにつながる研究成果ということができ、何はともあれ日本の世界に対する大いなる貢献になることを期待したい。

 チームは〇四年に鳥インフルエンザにかかったベトナムの一人の患者からウイルスの変 異を検出し、動物実験で重要な変異であることを特定した。河岡教授は昨年、やはり人間への定着に重要な別の変異を見つけて世界でもっとも権威のある学術誌「ネイチャー」で発表している。

 これで二つの変異を特定したのだが、二つの変異以外にもまだ重要な変異があると考え られるそうだ。

 インフルエンザウイルスは多様に変異するため、どれが重要な変異なのか特定が難しい 。さらにインフルエンザウイルスの増殖過程に対する理解がまだ不十分なため、予防や治療方法につながっていないということもある。が、河岡教授らの成功は、新型インフルエンザの大流行の前兆をモニターすることへの貴重なステップである。

 新型インフルエンザについては、世界保健機関(WHO)が近づいていると警告し、こ れを受けて国内でも厚労省など各省庁が対策を進めているところだ。政府は新型インフルエンザが流行すれば、国内だけで死者は最大六十四万人に及ぶとしている。

 が、インフルエンザ治療薬だけでは量の不足などでお手上げである。そのためにWHO はもとより各国は大流行の前兆を素早くつかみ、広がる前に予防の手を打つことができないものかと、確実な対応策を探っている最中だ。河岡教授らの研究への期待が大きいゆえんである。


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