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コラム・ちょっと読ん得?
10月1日(月)
松井秀喜 絶好調から不振への真相

著者の広岡勲さん
著者の広岡勲さん
自分の言葉には責任を持たなければならない。ましてやその言葉がメディアを通じて
読者に伝わるのであればなおさらのことだろう。

 僕は8月16日のこのコラムにて、
我がチームの松井秀喜選手が
7月の月間MVPに選ばれたことを受け、
「メジャーの投手に対応する打撃が
ようやく出来るようになった」と書いた。
また「要因はズバリ、打撃改造、技術的進歩であることが見て取れる」と書いた。
それだけではない。
「今の好調は一時的なものではないだろう」
とまで言い切った。

しかし、皮肉なことに、その直後、
彼のバットからは快音が消えた。
あまりに突然過ぎた出来事は、
僕だけでなく、ファンを、そして首脳陣を驚かせた。
いや、やきもきさせた。

 僕たちが首を傾げたのは松井の発言を聞いたときだ。
「右ひざの痛みは打撃には支障ありません」。
また「オールスター前から痛みは(すでに)あった」とも言っている。
となれば、松井秀喜をここまで苦しめた要因は何だったのか。

自らの取材の甘さを省みて、僕は要因を突き止めることにした。
まずは彼の言葉に耳を傾ける。すると色々なヒントがあることに気付かされた。
「メンタル的な変化?特にないですよ。
野球以外のことを僕はグラウンドには持ち込まないタイプですから」。
「疲れがないと言えば嘘になる。この時期疲れていない選手などいない」。
「スイングスピードが落ちた?それはないと思う」。
「打てないのは技術的な問題?まあ、相手(投手)があっての野球だし、
一概にそれだけとは言い切れない気もするが、それもあるでしょう」。

これらのコメントを文字通りに読んだだけでは本心など分からない。
読み取らなければいけないのは、言葉の奥にある彼の本音だ。
言葉のチップを並べ返すと、そこにひとつの答えがあることが見て取れる。
それは他の質問への答えはことごとく断定しているのに対し、
ただ一つ自ら説明を述べている問いだ。

確かにトーリ監督はいち早く「技術的に悪いときの癖が出てきた」と指摘している。
またロング打撃コーチも蓄積疲労→技術的な狂い→打撃不振の循環の話を繰り返していた。
ダレにでもスランプはあるのだ。
しかし、巨人時代から松井を見ていて、常々感じていることがある。
メジャーに来てから顕著となった打撃不調時の長さ(スポーツ界ではスランプという)だ。
もしそれがなければ、物理的に見てもロドリゲスのような数字を残しているのに・・、
なんて思うのは僕だけだろうか。
 
巨人時代の松井はスランプになるとよくバットを振った。
早出特打を繰り返し、長嶋邸にはバットを持って通った。
宿舎では自らバットを持ち帰る光景もしばしば見られた。
また外野では黙々と走りこみをする姿があった。
そこにはスランプはバットを振って脱出するんだ、といった意気込みが感じられた。

だが、メジャーに来てから、そのような光景を見ることはほとんど出来なくなってしまった。
もちろん試合数が違うぶん、調整方法が違ってくるのは当たり前のことである。
ただ、当時の彼はよく言っていた。
「打撃の基本は素振り。そして打ち込むことでスタイルが確立される。じっとしていても始まらない」。
また強い松井秀喜を見てみたい。


【著者】広岡勲(ひろおか・いさお)
報知新聞社で、長嶋茂雄、松井秀喜番など、巨人担当記者を7年間務めたのち2年間休職し、
ニューヨーク市立大学大学院修士課程を修了。
その後報知新聞社を退社し、’03年から日本人初のニューヨーク・ヤンキース「球団広報」、
‘07年からは「球団広報兼環太平洋担当」となり、
現在は日本メディアをはじめ台湾メディアなどの取材対応をしている。


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