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2007年10月05日(金曜日)付

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南北首脳宣言―言葉は盛りだくさんだが

 韓国の盧武鉉大統領と北朝鮮の金正日総書記が、共同宣言に署名した。

 「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」という名が示すように、いろいろなアイデアや希望を盛り込んだ。どう実現させるのか、心配になるほどである。

 地域の平和と安定に役立つのは間違いない。これまでの南北合意はたなざらしにされることが少なくなかった。それだけに、今度の宣言がどう展開するか、注目していきたい。

 首脳会談では、北朝鮮の核問題がどう言及されるかが注目点だった。宣言は「6者協議の共同声明と合意が順調に履行されるよう共同で努力する」とし、とくに新しい進展はなかった。

 盧大統領は、核放棄すれば北朝鮮の利益になる、と金総書記に説いたはずだ。そのことが宣言ではっきり書き込まれなかったことには不満が残る。

 しかし、6者協議は今年2月の合意で、核放棄に向けて当面の措置を示した。それに沿って北朝鮮は動くことを約束したともいえる。北朝鮮は首脳宣言でこの約束を確認したことを踏まえ、確実に実行していかなければならない。

 半世紀前の朝鮮戦争はまだ正式には終わっていない。この休戦状態をどう恒久的な平和に切り替えていくか。今回、盧大統領はこの問題に熱心だった。

 宣言は、南北や米国、中国を想定した戦争当事者の首脳会談を求めた。意欲は分かる。だが、いきなり首脳会談まで持っていけるのか。90年代に実務者の「4者会談」が開かれたものの、全く成果を上げられなかった。

 朝鮮半島の平和には、周辺国の理解と協力が必要だ。ここは回り道のようでも、核問題の解決に力を注ぐよう双方は心してもらいたい。

 経済協力で、金総書記は韓国の取り組みに不満そうだった。中小企業による小規模な投資にとどまっているためだ。

 それを受けてか、宣言は多くの経済協力をうたい上げた。しかし韓国の大企業はまだまだ本格投資には及び腰だ。あまりにリスクが高すぎるからだろう。

 盧大統領は「改革・開放に対する不信感と拒否感を会談で感じた」と語った。金総書記の狙いは、自分の体制を守りつつ南から資本を引き込むことだ。そのためには改革をと促す大統領とすれ違いに終わったのかもしれない。

 会談では金総書記が唐突に滞在延長を勧めて後で撤回するなど、盧大統領が振り回される場面もあったようだ。

 だが、7年前の共同宣言は短く抽象的な表現が多かったのに比べ、今度はより具体的になるなど成果もあった。初めて軍事面の信頼を築いていく大切さにも触れた。初回の熱狂から脱し、実務的な会談になってきたともいえる。

 両首脳は首相、国防相同士の会談開催に合意した。それらの機会を生かしながら、首脳宣言を実行していく仕組みをつくっていってもらいたい。

「円天」事件―うまい話に踊らされるな

 100万円を預ければ、年に36万円の配当を受けられる。使っても減らない「通貨」がある。そんなありえない話に引っかかった人が全国で5万人にものぼるというのだから、驚いてしまう。

 そうした商法を展開していた健康商品販売会社「エル・アンド・ジー」(L&G)が、出資法違反の疑いで警視庁などの家宅捜索を受けた。

 この会社は高利の配当をうたったほか、「円天」と称する疑似通貨も発行し、インターネット上などで買い物ができると宣伝した。

 電子マネーにも似た、いまふうの手法が世間の興味も引いたのだろう。加入者はどんどん膨らんだ。

 だが、こんな商法が長続きするはずがない。資金繰りに行きづまったとみられ、今年の2月ごろから現金での配当が止まった。解約もできなくなった。

 会社が集めた金は1000億円を超すとみられている。友人らを会員に誘えば報酬をもらえるしくみが、規模をここまで広げたようだ。

 どうみても悪質な手口だ。警視庁などは詐欺にあたる可能性もあるとみている。全容の解明を急いでもらいたい。

 それにしても、とんでもないもうけ話に誘い込まれる人が後を絶たない。

 「出資金が倍になる」などと持ちかけた全国八葉物流やリッチランド、IP電話事業を口実に全国から資金を集めた近未来通信の事件も記憶に新しい。

 今回も、老後のたくわえや、なけなしの金をつぎ込んだ人たちがいる。「円天」という疑似通貨の目新しさに加え、有名歌手のコンサートに招待されるなどで、まどわされた面があるだろう。

 だが、背景にあるのは、ついつい欲を出しがちな人間の脇の甘さではないか。そのうえ、いまは低金利の時代だ。「銀行へ預けておくよりも得」と飛びつく人が出てしまうのだ。

 しかし、世の中にそんなにうまい話はない。ちょっと考えれば、年利36%という配当が現実離れしていることがわかる。巻き込まれた人たちには気の毒だが、軽率だったといわざるをえない。

 誘いに乗った代償はあまりに大きい。エル・アンド・ジーは事実上、破綻(はたん)したといえる。出資した金をすべて取り戻すのは難しいだろう。

 金だけではない。友人らに加入を勧めた人は、相手に損をさせた可能性が大きい。被害者がいつのまにか加害者になっていたかもしれないのだ。

 こうした悪質な商法をめぐっては、次のような懸念がささやかれている。

 団塊の世代の人たちが定年を迎え始めた。まとまった退職金を手にする人が大量に生まれている。そこにつけ込む業者が、これからさらに出てくるだろう。

 だからこそ、一人ひとりが気をつける必要がある。うまい話を信用せず、一歩引いて考える。だれかに相談する。そんな冷静さを忘れないようにしたい。

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