「この国の人が坊さんを敬うのには驚きました」と戦後の小説「ビルマの竪琴」(竹山道雄著)にある。この国とは今のミャンマーのことだ。
「お布施を出すのも、それはけっしてただのほどこしではなくて、むしろ、自分に代わって生きとし生けるものを救うために苦行する人々へのお礼です。くれてやるのではなく、ひざまずいて奉るのです」。
しかし、タン・シュエ議長率いる現軍事政権はひざまずくどころか銃口を向けた。反政府デモの武力制圧から一週間余、英BBC放送によると約四千人もの僧侶がヤンゴンの競馬場や大学などに拘束され、僧衣を脱がされ手錠などをされているという。
軍政は僧侶たちを北部に移送し、さらに拘束を続ける方針だと報じられている。一日も早い解放を願わずにはいられない。そのためには国際社会が一致して軍政に働きかけ弾圧の停止、民主化勢力との対話実現を促す必要がある。
四日、デモ取材中に射殺された映像ジャーナリスト長井健司さんの遺体が帰国する予定だ。年老いた両親の悲しみは深い。胸が痛む。軍政は「偶発的事件」と言うが、テレビ映像を見る限り至近距離で背後から撃ったのは明らかだ。
日本政府は検視後、関係者の厳正処分を求めるなどし軍政を追い込むべきだ。長井さんの尊い死を生きとし生けるものの民主化につなげていかなければならない。