国会は福田康夫首相の所信表明演説を受け、各党の代表質問が始まった。福田首相にとって就任後初の国会質疑である。衆院で与党、参院で野党が多数派となる「ねじれ現象」が生じた状況下で、初日は対決姿勢を強める民主党の鳩山由紀夫幹事長が論戦の口火を切った。
安倍晋三前首相の突然の退陣による準備不足のためか、福田首相の所信表明演説は具体性に欠けた。首相が掲げた「自立と共生」や「希望と安心」の国づくりのイメージは見えてこない。「政治とカネ」など個別の政策課題でも、具体的な対処方針はほとんど聞かれなかった。
鳩山幹事長は「理念や政策があいまいで国民の不安は増すばかり」と首相の姿勢を批判し、小泉・安倍政権の構造改革が弱者切り捨てや格差拡大につながったとして「小手先の修正ではすまない」と抜本的な路線変更を求めた。
首相は「国民の目線に立って若者が明日に希望を持ち、お年寄りが安心して暮らせるようにしたい」と述べるにとどまった。相変わらず具体性に乏しく、これでは議論を深めるどころか、全くかみ合わないのではないか。
「政治とカネ」の問題では、非公開で審査に当たる第三者機関の国会設置を柱とする自民党案を首相は「検討に値する」と評価したが、政治資金透明化に向けた強い意欲は感じられなかった。
宙に浮いた約五千万件の年金記録の照合については、民主党の長妻昭「次の内閣」年金担当相が、社会保険庁だけに対応を任せず国家的プロジェクトで取り組む必要性を迫ったが、首相は従来通り社保庁で行うとした。
首相の答弁は官僚的で物足りない内容が目立った。何度も強調したのは「野党とよく協議して」という低姿勢な言葉だった。準備不足で本当に政策を具体化できていないのか、衆院の早期解散を迫る野党との対決を回避して時間稼ぎをもくろんでいるのか分からないが、そんなことでは国民の理解は得られまい。安倍政権の混乱で約二カ月も政治空白をつくった責任を重く受け止めてもらいたい。
「ねじれ国会」は本格的な政策論議のチャンスである。民主党にとっても政権担当能力が試される場になるが、二人の質問者とも党内で考えの開きが大きい憲法改正や集団的自衛権問題には触れなかった。これでは参院第一党の名が泣くだろう。
今後の国会審議では、与野党とも真正面から政策を競い合い、議論を掘り下げる必要がある。それが有権者の期待に応える道ではないか。
優れた女性科学者に贈られる「猿橋賞」を創設した「女性科学者に明るい未来をの会」専務理事の猿橋勝子さんが亡くなった。八十七歳だった。
猿橋さんは、一九八〇年に気象研究所地球化学研究部長を最後に気象庁を退職して「女性科学者に明るい未来をの会」を設立し、猿橋賞を設けた。女性初の日本学術会議会員でもあった。
猿橋賞は、女性科学者の地位向上を目指し、自然科学の分野で顕著な研究業績を収めた人に贈られる。推薦締め切り時に五十歳未満と年齢制限がある。今年は、東京大気候システム研究センターの高薮縁教授が選ばれた。受賞テーマは「熱帯における雲分布の力学に関する観測的研究」だった。
これまでの受賞者の中には育児のために研究生活を中断しながら、再び戻った人もいる。努力と成果を評価する猿橋賞は、女性科学者にとって大きな励ましになっている。
今年の男女共同参画白書によると、研究者全体に占める女性研究者の割合は二〇〇六年時点で11・9%だった。年々増える傾向にあるが、伸び率は低い。調査時は異なるものの米国は30%を超え、フランスは27%、英国は26%を占める。
女性科学者が少ない理由として白書は「出産・育児・介護などで研究の継続が難しい」「女性を採用する受け入れ態勢が整備されていない」などを挙げる。厳しい現実が横たわる。
女性の高学歴化で優秀な人材は多いのに、受け入れ態勢が整備されないのでは社会の活力は失われ、国際的な競争にも遅れをとろう。猿橋さんの遺志を受け継ぎ、女性科学者が活躍できるよう国を挙げて取り組む必要があろう。
(2007年10月4日掲載)