現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2007年10月04日(木曜日)付

クラブA&Aなら社説が最大3か月分
クラブA&Aなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

6者合意―核廃棄へ一歩進んだ

 年内に北朝鮮は核施設を使えないように「無能力化」する。すべての核開発計画を申告する。そんな合意が盛られた6者協議の共同文書がきのう、議長役の中国から発表された。

 無能力化の対象として5000キロワットの原子炉、使用済み核燃料の再処理施設、核燃料製造施設の3カ所が明記された。すでに停止・封印されているものだが、それを再び動かせないようにするのは、核放棄に向けた重要な一歩である。

 北朝鮮が保有しているとされる核兵器はプルトニウム型だ。その材料をつくるのにかかわってきたのがこの3施設だ。

 もう一つ、核危機のきっかけになったウラン濃縮については、まだ兵器レベルの製造まで至っていないと米国の専門家らは見ている。とすれば、無能力化を3施設で行うことは、とりあえずは現実的な判断と言えるだろう。さらに大型の炉を建設する構想はあるようだが、実際にはほとんど進んでいない。

 今の段階における必要最小限の合意はできたのではないか。核兵器をつくる材料がこれ以上増えるのを止めることができるからだ。

 6者協議の今年2月の合意に基づき、稼働停止など最初の措置は終えた。その次の段階として、「すべての核計画の完全な申告」と「すべての核施設の無能力化」を求めている。何をもって「すべて」とするかが難しいところだ。

 すでに作ったと見られる核爆弾はどうなるのかなどを含め、今回の合意が不十分であることは間違いない。

 だが、一挙に完全を求めるよりも、まず現実の緊急性を優先させたということだろう。今回の合意を約束通りに実行することが大切だ。

 そのためにはどうやって無能力化するのか、具体的な作業内容を詰めなければならない。同時に、核計画の申告をより完全なものに近づけ、無能力化する施設を広げることだろう。

 ウラン濃縮の疑惑解明は欠かせない。北朝鮮は事実を説明すべきであり、それなくして「完全な申告」にはならないことを説得しなければならない。

 北朝鮮は、テロ支援国家の指定解除を米国に強く求めている。今回の合意で米国は北朝鮮の具体的な行動に応じて解除の作業を進めていくことになった。具体的な期日は明記されていないが、北朝鮮は年内解除が確認されたとしている。新たな火種になりかねない。

 この問題は拉致問題を抱える日本にも影響する。米国は日本と緊密に協議しながら進めてもらいたい。

 核放棄に向けて、次の段階に何を実行するか。それを早く協議したい。

 そうした取り組みを後押しするためにも、6者間で開催に合意している外相会合をできるだけ早く開くべきだ。拉致問題の解決を含め、日朝の国交正常化を進められるよう、より具体的な協議に入る必要もある。

給油活動―首相の答弁に失望した

 安倍前首相の突然の辞意表明から20日あまり、ようやく国会論戦が始まった。参院での与野党逆転を受けて、初日の衆院での代表質問はいつにない緊張感が漂った。活発な論議を期待したい。

 そのなかで、早くもがっかりさせられたことがある。インド洋での海上自衛隊による給油を続けるかどうか。この問題をめぐる福田首相の答弁だ。

 民主党の鳩山由紀夫幹事長が、給油活動の実態について情報開示を求めた。首相は「各国の理解を得ながら、可能な限り開示できるよう防衛省が努めている」と、素っ気ない答弁に終始した。

 確かに、他国の軍隊の作戦行動にもかかわる活動だ。日本だけの判断では公表できないものもあるかもしれない。だが、それにしても防衛省は本気で情報を開示しているとは思えない。

 首相は所信表明で「野党と重要な課題について誠意を持って話し合う」と約束したはずだ。これではその「誠意」が怪しくなってくる。

 海上自衛隊が米艦船に給油した油が、テロ特措法の目的からはずれるイラク戦争に使われたのではないか。最近浮かび上がってきた疑惑だ。日本の市民団体が米国の情報公開制度で入手した米海軍の資料で、疑いはさらに深まっている。

 政府が調べた結果、2003年2月にインド洋上で米補給艦に給油したのは、当初公表した20万ガロンではなく、4倍の80万ガロンだったと訂正された。

 この油は米空母のキティホークに再給油され、同空母はイラク監視活動に向かっている。政府は当初、20万ガロンは空母1日分の消費量だからイラク絡みへの転用はありえないと答弁していたのに、その根拠が崩れてしまった。

 首相はきのうの答弁で「事務的な誤り」と説明したが、では転用の可能性はどうなったのか。「事務的」では済まされない重大な誤りだ。

 給油を受けた外国艦船がその後、どのような活動をするかはその国が決めること。日本政府は詳細を知らない――。政府はこんな見解を答弁書にまとめている。これでは開き直りに近い。

 イラクについては、国会での激しい論戦を経て、派遣する自衛隊の任務や活動地域を厳しく限定したイラク特措法をつくった。憲法違反の疑いもぬぐえないなかで当然のことだ。そこには海上での給油活動など含まれておらず、やっていたなら重大な法律違反である。

 給油量は、イラク情勢が緊迫し戦端が開かれた時期に増えている。しかも米艦艇への給油のうち6割強が補給艦だ。

 自衛隊を海外に出すにあたっては、法律で活動内容を厳密に限定するのはもちろん、その実態を国会が承知していることが大前提だ。それが戦前とは違う、戦後の民主主義のあり方である。

 首相は疑惑にきちんと答えるべきだ。政府は給油に限った新法を準備しているが、実態を明らかにすることが先だ。

PR情報

このページのトップに戻る