最近郊外にお目見えしている古書店は、店内が広く明るくて本を探すのがとても楽だ。本があまり汚れていないのはありがたい。
ただ昔からの古書店好きは町中の店が捨てがたい。かすかにかび臭い店内は、通路にまではみだした本でいっぱいだ。掘り出し物を探そうと背表紙とにらめっこする。今では手に入らない絶版本を見つけるとうれしい。
倉敷市の元県庁職員柘野健次さんは、仕事の休憩時間には古書店をのぞいていた古書好きで、店主とは顔なじみだ。今年自費出版した「古本雑記―岡山の古書店」では、文学書や美術書などさまざまな本との出合いを語っている。
作家の木山捷平、柴田錬三郎、立原正秋らのサインの入った署名本は三十年かけた自慢の収集だ。二十年ぶりに倉敷市の古書店で再会した歌人会津八一の書の復刻版「飲中八仙歌」を手にするまでの執念はすごい。
古書店を巡るようになったきっかけは、学生時代に出合った山本周五郎著「さぶ」だった。人間はどんなつらいことがあっても希望を捨てず生きなければならないと教えられたという。以来、「人生に益するか」「再読に値するか」が購入の基準だ。
柘野さんによると、岡山、倉敷市の古書店は次第に減りつつあるものの健在だ。活字文化の振興のためにも頑張ってほしい。読書の秋である。久しぶりに古書店を巡ってみようか。