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前原誠司の『直球勝負!』

前原誠司の「直球勝負」(40)

〜 日本はテロとの戦いに加わり続けるべきだ 〜

*そもそもの発端

 2001年9月11日、アメリカのニューヨークやワシントンD.C.などで同時多発テロが発生し、日本人24名を含む3000名を超える方々が犠牲となった。事件が起きたのは日本時間の夜10時前後だった。ニュース番組の中継中に、ハイジャックされた飛行機がマンハッタンの世界貿易センタービルに突っ込み、ほどなく100階を超える2棟のビルが崩れ落ちていった衝撃の映像を、今も忘れることは出来ない。

 このテロは、ビン・ラディンを主犯とするアルカイダというテロ組織によって実行された。その巣窟となり、タリバンという武装勢力が支配するアフガニスタンに、アメリカは報復攻撃、つまり個別的自衛権を発動した。こうして始まったのが「不朽の自由作戦(OEF)」である。北大西洋条約機構(NATO)やオーストラリアなどは初めての集団的自衛権の行使を行って攻撃に加わり、あるいはアフガニスタンを攻撃するアメリカを支援した。国連の安全保障理事会も、すぐに国連決議1368を採択し、加盟国の個別的自衛権、及び集団的自衛権を確認すると共に、テロは決して容認できない旨の非難決議を行った。

日本もテロ対策特別措置法を成立させ、今日に至るまで、インド洋に海上自衛隊の補給艦を派遣して、アメリカやフランス、パキスタンなどに対して油や水の補給を無料で行ってきている。民主党は当時、法案審議の際に与党と修正協議を行ったが、「自衛隊を出す場合は国会の事前承認が必要だ」と主張する我が党と、「事後で構わない」とする与党が対立し、結局、修正協議は整わなかったが、洋上給油活動を基本とする基本計画には、民主党も賛成した。

 後にアフガニスタンでカルザイ政権が誕生したが、国連決議1386によってISAF(国際治安支援部隊)が組織され、NATOが中心となってアフガニスタンの治安を維持してきた。OEFもカルザイ政権誕生後、アメリカの個別的自衛権と同盟国の集団的自衛権の行使という位置づけから、アフガニスタン政府の要請によって行われる活動と活動根拠の転換が図られている。

*日本の協力に関わる問題点

 テロ対策特別措置法は、あくまでも時限立法であるが、数度の延長が繰り返されてきた。私は、テロとの戦いには加わるべきだという立場ではあるが、時限立法を何回も延長するという形態には疑問を感じてきた。一般法、あるいは恒久法が、本来のあるべき姿ではないだろうか。同時に、政府の説明責任、情報開示にも、大いなる疑問を感じざるをえない。補給活動は年々減少しているのだが、政府の説明は「抑止効果がでているから」というものであり、その背後にある具体的な説明は一切されてこなかった。抑止効果がでているのであれば、アフガニスタン国内の治安状況も改善に向かっていいはずだが、その兆候は一向に見られない。

 日本が無償提供している油は、OEFにのみ使ってきたと言いながら、「イラクの自由作戦(OIF)」にも使っていたのではないかとの疑惑も浮上している。ある時期、アメリカの補給艦に提供した油の量の入力ミスもあったという。実際は80万ガロンだったのに、20万ガロンと発表してきた。本当に単純な入力ミスなのか。それとも故意だったのか。また、他にもこのようなミスや問題点はないのか。防衛省は徹底的に情報開示を行わなければならない。少しでも隠そうとする姿勢で臨み、その隠蔽工作が明るみになった瞬間に、海上自衛隊の活動は国民から理解されなくなる。ジ・エンドだ。国益の観点から本当に必要な活動だと考えているのであれば、徹底的な情報開示と、きめ細かな説明責任が求められる。

*自衛隊の活動は憲法違反なのか?

 我が党の小沢代表は、自衛隊が行っている活動はアメリカの個別的自衛権に対する集団的自衛権の行使であり、憲法違反だと主張している。歴代政府の憲法解釈や民主党の従来の見解とは異なるが、旧自由党以来一貫しており、一つの考え方であろう。そもそも、「わが国は主権国家として個別的、集団的にかかわらず自衛権を有しているが、憲法が集団的自衛権の行使を認めていない」という内閣法制局見解は、9条や前文をどう読んでも理解できない。まして、持っているけれども使えない権利とは一体、何なのか。しかも、集団的自衛権の行使に当る活動を「武力行使の一体化」に求めているが、これも憲法のどこに書いてあるというのか。憲法を素直に読めば、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と書いてあるのだから、自衛隊は憲法違反であるという議論の方が、良いか悪いか、現実的かどうかは別として、よほど判りやすい。

 近い将来、憲法改正や憲法解釈の変更が国民的な議論を経て行われることを、私も積極的に関与していきたいと考えているが、現状で日本が直面する安全保障問題に対処するためには、如何に現実的かという点が大切なポイントとなる。

朝鮮半島で不測の事態が生じ、アメリカが韓国に対する集団的自衛権の行使を宣言して活動するとする。まさに、そのような事態が「周辺事態」に当るのだが、自衛権の行使を行っているアメリカに、憲法で禁止されている集団的自衛権に当るので、一切の後方支援も出来ないとすれば、アメリカは日本の安全確保のために活動するという形はとれないので、日本の安全は脅かされることになる。そもそも、日本がアメリカに基地を提供している意味、あるいは意義も否定するような話になる。良いか悪いかは別にして、当面は現在の憲法解釈で、日本の安全保障政策を遂行することが現実的だ。

*なぜ、日本はテロとの戦いに加わるべきなのか?

テロとの戦いに加わるべき理由を、主に3点挙げたい。

(1)アフガニスタンにおけるテロ撲滅活動は、国連決議も数次行われたうえで、国際社会が一丸となって行われている。中には犠牲者を出しながら努力を続けている国々もある。国内資源に乏しく、食料自給率も4割を切り、自由貿易で恩恵を受けている日本は、平和な国際環境を築くために主体的に関わるべきである。

また、日本は中東に9割以上の石油を依存しており、この地域の不安定化や混乱は、石油価格の高騰となって日本経済に襲いかかる。だからこそ、この地域や、タンカーの航行路であるペルシャ湾、インド洋の安全・安定は、日本の国益上、極めて大きな意味を持つのである。

(2)アフガニスタンの治安を維持することは、不安定なパキスタン政情の安定にも大きく寄与している。アメリカの世論調査では、最大の敵対国はパキスタンであり、現にテロ組織を国内に野放しにしているのではないかと懸念も根強い。しかし、ムシャラフ大統領はイスラム国家でありながら、何とかパキスタンもテロとの戦いに関与し続けようと努力している。日本はパキスタン海軍にも大量の油と水を提供しており、日本が抜けることはパキスタンのみならず、OEF参加国に大きな痛手となる。また、パキスタンは核保有国であり、パキスタンの政情が不安定になれば、核の技術や核関連物質が拡散し、テロ組織に核が渡る可能性が高まる。現に北朝鮮の核開発は、パキスタンの科学者・カーン博士の「闇のネットワーク」に助けられたことを忘れてはならない。

(3)日米同盟関係は、日本の外交と安全保障の基軸である。日本の安全保障において、インテリジェンス(情報)やミサイル防衛・戦闘機・イージス艦などの装備は、好むと好まざるとに関わらず、アメリカにおんぶに抱っこである。また、アメリカと強固な同盟関係にあることによって、北朝鮮の核開発問題、中国の台頭、そして韓国・アセアンなどとのより信頼感のある関係維持に対処することが出来よう。これを安易な対米追従と忌み嫌ってはならない。もちろん、アメリカの要求にすべて応えるべきだなどと言うつもりは全くない。筋の合わない要求、例えばイラク戦争には毅然と反対すべきであるし、戦後占領されたままの基地や航空管制権の返還は、主体的に進めていかなければならない。

以上のように、情報公開や説明責任は政府にしっかりと求めながらも、日本の国益、世界の安定のために、日本はテロとの戦いに加わり続けるべきだと、私は考える。