現在位置:asahi.com>社説 社説2007年10月03日(水曜日)付 南北首脳会談―核放棄の言質をとれオープンカーに立ち上がり、平壌の目抜き通りをゆっくりパレードする盧武鉉大統領。いつものジャンパー姿の金正日総書記が歓迎会場で待ち受ける。ふたりは握手を交わした。 韓国と北朝鮮の指導者の、7年ぶりの出会いである。だが、分断後初めて南北首脳が会談した前回のような高揚はなく、どこか実務色も漂う。 熱狂は後ろに退き、落ち着いた対話の始まりということだろうか。 00年の時は、予告もなしに金総書記が空港に出迎え、タラップを下りる金大中大統領とがっちり両手を取り合った。市内への移動には同じ車に乗り込み、いきなりの車中会談が始まった。 きのうは右手だけの事務的な握手だった。歓迎の式典を終えると、ふたりは別々の車で動いた。 重要なのは、首脳会談の中身だ。分断国家が和解と協力を確認し、平和と安定を目指すのは、当事者のみならず私たち隣国にも望ましいことである。 横たわる課題は数多い。実り多い会談になるよう期待する。 大統領は陸路を使い、軍事境界線を歩いて越えた。その道路は00年の首脳会談によってできたものだ。「先の会談が南北関係の新しい道を開いたとすれば、今回はその道に横たわる障害物を片づける会談だ」。ソウル出発に当たって大統領はそう語った。 7年前の会談で出した共同宣言は「民族の自主」をうたい、協力と交流の扉を大きく開いた。確かに南北の往来は飛躍的に増え、大きな成果をあげた。 だが、宣言には、軍事的な信頼をどう積み上げ、平和を確かなものにしていくか、という視点が欠けていた。 盧大統領は「何よりも平和定着と経済発展の実質的で具体的な進展に力を入れる」と述べた。軍事問題も避けずにきちんと話し合うべきだ。 朝鮮半島の平和は、当事者の努力だけで達成するのは難しい。国際社会の理解と協力がどうしても必要だ。 北朝鮮の核開発の問題はすでに国際社会を広く巻き込んでいる。これを解決することなくして平和はありえない。盧大統領には、金総書記の口から「核放棄」の言質をとってもらいたい。 それがあってこそ、南北首脳が「朝鮮半島の非核化」を語る意味がある。朝鮮戦争を正式に終了させる平和協定を結ぶ環境も、核放棄の取り組みが進むことで生まれてくるはずだ。 6者協議は、核爆弾の製造にかかわってきた北朝鮮の3施設を「無力化」することで暫定的に合意した。北朝鮮で絶対的な権力を持つ金総書記がこの合意を確認すれば、今後の交渉に弾みがつく。 盧大統領は日本人拉致問題の解決も説く予定だという。地域の平和と安定には、日朝の関係改善も欠かせないからだろう。大統領のそうした姿勢を評価する。金総書記の発言に注目したい。 高齢者医療―負担凍結は目くらましだいくら「背水の陣内閣」だからといって、改革を掲げて鳴り物入りで成立させた法律の規定を凍結するとは、あまりにご都合主義ではないか。 医療改革の柱である高齢者への負担増のことである。 新しい法律では、75歳以上の人は来年4月から、健康保険組合や国民健康保険とは別に都道府県ごとにつくる医療制度に入る。その費用は自己負担を除けば、1割は保険料で、残りは健康保険組合などからの支援金や税金でまかなう。 息子や娘の健康保険組合の被扶養者となっていた75歳以上の人は、新たに保険料を払わなければならなくなる。 自民、公明両党が凍結しようとしているのは、この75歳以上の新たな保険料払いのほか、70歳から74歳の人が病院の窓口で払う自己負担の1割から2割への引き上げだ。 参院で野党が多数を占めているため、凍結法案を出せば、つけ込まれかねない。法律には手をつけず、予算でやりくりする考えだ。これにより約1000億円の財源が必要になりそうだ。 この突然の「朝令暮改」は、どう見ても、総選挙を意識した一時しのぎだ。選挙が終われば、凍結を解除し、改めて負担増を求めることになるだろう。こんな目くらましの方法は、福田首相の言う「希望と安心」にはつながるまい。 そもそも今回の凍結には、いくつか問題がある。 一つは、11年度に財政を健全化させるという政府の目標が怪しくなることだ。厚生労働省は来年度予算で社会保障費の伸びを抑えなければならず、とても財源をひねり出す余裕はない。赤字国債でまかなうようなことになれば、財政の規律は一気にゆるみかねない。 二つ目は、高齢者医療制度の発足に向けて進めている都道府県の作業が、大混乱しかねないことだ。保険料の一部を集められないとなれば、別の手立てをとらなければならない。 三つ目は、若い世代の理解が得られるとは思えないことだ。新しい制度と負担増は、少子高齢化が進めば、若い世代の負担が重くなり、制度が立ちゆかなくなるとして設けられた。 障害者の負担増や母子家庭への給付カットの見直しはともかくとして、一律に弱者とは言えない高齢者の負担増の凍結は、育児や住宅ローンに苦しむ若い世代の反発を招くだろう。 高齢者がもっと安心して暮らせる仕組みにするのは当然だ。だが、そこで求められるのは、小手先の策ではない。例えば、福祉目的の消費税など新たな財源に正面から取り組む。そうしたことが政権与党の責任である。 PR情報 |
ここから広告です 広告終わり どらく
一覧企画特集
朝日新聞社から |