「ピーターラビット」というウサギのキャラクターは有名だが、その作者について知っている人がどれだけいるだろう。公開中の映画「ミス・ポター」を見て、生みの親であるビアトリクス・ポターのことを初めて知った。
映画はポターの半生を描いており、絵本の出版からベストセラー作家になるまでを、動物を描くのが好きだった幼いころの回想を織り交ぜながらたどる。これだけなら一人の絵を描く才能を持った少女が、自分の夢を実現させるサクセスストーリーといったところだ。
しかし、驚くべきは絵本作家として成功後、ロンドンから移り住んだ湖水地方で、住宅開発されそうになった農場を次々に買い取り、景観保護に尽くしたことだ。当時のイギリスでは歴史的建造物や貴重な自然を守るために、民間の保護組織ナショナル・トラストが活動を始めたところだった。
一九四三年にポターが亡くなった後、四千エーカー(約十六平方キロメートル)に上る土地や農場がナショナル・トラストに寄贈された。早島町(七・六平方キロメートル)の二倍以上の広さだ。
そこで思い浮かんだのが、地方の活性化が大きな課題になっている日本社会の現状だ。百年前のイギリスと単純に比べるつもりはないが、それぞれの地域を愛する人々がいなければ地域は守っていけないということだ。地域活性化に必要なのは人の心だと、ポターに教えられた。
最初の絵本「ピーターラビットのおはなし」が出版されたのは、百五年前の十月二日である。
(東京支社・八木一郎)