「地域の個性を生かしていく一方、活力の弱い地域を簡単に切り捨てるようではいけない」。その通りだ。
安倍晋三前首相が自民党幹事長代理時代、小泉構造改革の弊害を指摘し、もし首相になったら経済合理性だけで判断せずに改革をきめ細かくしていく必要があると強調していた。「安倍晋三対論集―日本を語る」(PHP研究所編)に出ている。
安倍首相の退陣につながった与党の参院選惨敗は、小泉改革が地方に痛みを押し付けたことへの地方の反発が大きな要因だった。安倍氏は、小泉改革の負の部分に早くから気付いていたのに有効な手を打てなかった。衆参で過半数を制する数のおごりが、改革に対するきめ細かな配慮を忘れさせたのだろう。
後継の福田康夫首相も、一日の所信表明演説で「構造改革を進める中で、格差といわれるさまざまな問題が生じています」と述べた。安倍氏と同じ問題意識だ。「生じた問題には一つ一つきちんと処方せんを講じていくことに全力を注ぎます」と力を込めた。
参院で与野党の勢力が逆転し、福田内閣の国会運営は厳しい。野党が反対すれば法案の成立は困難になる。解散・総選挙圧力も強まる。事態を打開するには、地方再生など実績を着実に積み上げていくしかあるまい。
首相は演説で「地方の皆さまの声に真剣に耳を傾ける」と約束した。実行あるのみだ。