サイエンス

文字サイズ変更
Yahoo!ブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録
この記事を印刷
印刷

がん患者大集会:痛み、もう我慢しない 患者ら2000人が集会

全国から約2000人が集った「がん患者大集会」=広島市の広島国際会議場で8月26日
全国から約2000人が集った「がん患者大集会」=広島市の広島国際会議場で8月26日

 ◇緩和ケアの充実訴え--鎮痛剤の理解不足、誤解など指摘

 私たちはもう痛みを我慢しない--。がんによる苦痛のケアをテーマに掲げた「第3回がん患者大集会」(NPO法人がん患者団体支援機構など主催、毎日新聞社など後援)が8月26日、広島市で開かれた。全国のがん患者や家族約2000人が参加。患者や遺族らが講演やシンポジウムで体験を語り合い、緩和ケアの充実などを求めていくことを確認した。【須田桃子】

 「妻の苦しみがずっと頭から離れません」。「岩手にホスピス設置を願う会」の川守田裕司代表は、00年に妻を子宮がんで失った。妻が外科病棟の6人部屋で痛みに苦しみ抜いて亡くなったことや、痛みを取り除いてあげられないつらさを振り返り、「今この瞬間にも、激しい痛みを持つ人がたくさんいる。なぜ、がん患者はこんなに苦しまなければならないのか」と訴えた。

 06年に右脇下の悪性軟部腫瘍(しゅよう)と診断された岐阜県の会社員、横山光恒さん(38)は、10カ月に及んだ入院生活について、「家族との関係が悪化し、治療費もかさんだ。子どもはまだ小さく、不安ばかり。死ぬのも生きるのも地獄と感じた」と明かし、「告知の段階で、本人と家族に対する緩和ケアの一環として『うまく生きていく方法』を教えてほしい」と話した。

   *

 がん患者が感じる身体的な痛みには、▽がんそのものによる痛み▽手術の傷や抗がん剤の副作用など治療に伴う痛み▽椎間板(ついかんばん)ヘルニアや帯状疱疹(ほうしん)など、他の病気による痛み--がある。さらに、不安や抑うつなどの精神的苦痛、経済的な問題や家庭内の問題などの社会的苦痛、死の恐怖や価値観の変化などのスピリチュアルペイン(魂の苦痛)があり、これらの緩和が必要とされる。

 身体的苦痛の治療で世界標準となっているのが、世界保健機関(WHO)が86年に発表したがん疼痛(とうつう)治療法だ(96年に改訂)。痛みの強さを3段階に分け、段階に応じた鎮痛剤を定時に投与する方法で、痛みの8~9割は緩和できるとされる。

 日本でもWHO方式に基づく治療が進みつつあるが、鎮痛剤として使われる医療用麻薬の使用量が欧米先進諸国の数分の1にとどまるなど遅れが目立つ。6月に策定された国のがん対策推進基本計画でも、「治療の初期段階からの緩和ケア」が三つの重点課題の一つに掲げられた。

   *

 十分な緩和ケアが受けられない現状について、大集会の参加者からは「WHO方式を知らない医師が多い」「医療用麻薬を使うと麻薬中毒になるのではないか、という誤解がある」「薬が増えるのを嫌がったり、痛みの伝え方が分からない、あるいは『良い患者でいたい』との思いから、我慢している患者さんが多いようだ」などの指摘があった。

 大集会の最後に、がん診療にかかわる全医師が3年以内に緩和ケアの研修を受けることなど4項目の要望を採択し、支援機構の俵萌子理事長がアピール文を読み上げた。

 「これから私たちは我慢せず、痛いときは痛いと率直に言う。医療関係者の皆さまも一日も早く緩和ケアについて勉強し、行政は在宅の治療や緩和ケアを受けられるための施策や予算を惜しまないでください」

 ◇医師への伝え方--要点あらかじめメモを

 痛みの治療は患者の訴えがなければ始まらないが、外来などの限られた時間で、主観的な痛みを説明するのは難しい。

 医師への伝え方について、国立がんセンター東病院の木下寛也・緩和ケア病棟医長は「過不足無く話せるよう、あらかじめ要点をメモにまとめておくと良い」とアドバイスする。

 メモのポイントは、痛みの部位と強さ、一日の中での痛みの変化のほか、痛みが生じた時、和らいだ時の状況など。薬の種類や量、投与の間隔を調整する際も患者の声が頼りになる。例えば痛くなった時に飲む頓服薬を処方されている場合は、1日の服用回数とタイミング、服用後の効果を記録しておくと良い。最近では、患者用の痛みの記録用紙を用意している病院も多いという。

 木下医長は「痛みの治療はオーダーメード。よりよい治療には、的確な注文が必要だ」と話している。

==============

 ◇「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」に関する要望

 (第3回がん患者大集会で採択したアピール)

(1)「すべてのがん診療に携わる医師が緩和ケアの基礎知識を習得するための研修」を、国の施策として3年以内に実施すること。

(2)すべてのがん拠点病院、及び多数のがん患者を擁する主要病院において、緩和ケア病棟の設置、あるいは緩和ケアチームの結成を義務付けること。

(3)在宅での緩和ケアの体制整備。在宅緩和ケアの専門的な研修を3年以内に実施すること。在宅緩和ケアを促進するきめ細かな診療報酬面での見直し。

(4)国民に対して「がんの痛みはもう我慢しない、我慢させない」という大々的なキャンペーン・啓発活動を実施すること。

毎日新聞 2007年10月2日 東京朝刊

サイエンス アーカイブ一覧

ニュースセレクトトップ

エンターテインメントトップ

ライフスタイルトップ

 

おすすめ情報