「書き換えの道が開けて喜ばしい」。歴史教科書の検定でいったん削除が決まっていた「日本軍による沖縄住民の集団自決の強制」記述が、復活する見込みが強くなった。教科書の執筆者や教科書会社は文部科学省の方針転換を歓迎するが、「検定がなぜ一晩でくつがえるのか……」と、戸惑いの声も聞かれた。
検定で、日本軍の強制記述が削除された東京書籍。歴史教科書の執筆者の一人、東京都立駒場高校の坂本昇教諭は「検定は不当なものだった。文科省の見直しは一歩前進だ」と喜ぶ。
坂本教諭は「検定といえども無びゅうではない。間違いがあって、世論が動けば、国が方針を変えるのは当然。私たちにはよりよい教科書を子どもに届ける義務がある」とも語った。東京書籍の執筆者の間ではすでに、具体的な記述表現の検討が始まっているという。
「総理が福田さんに代わり、沖縄で抗議が盛り上がって、流れが変わると思っていた」と明かす執筆者も。
実教出版の高校日本史を執筆した一人で、歴史教育者協議会委員長の石山久男さんは「合理的な根拠のない検定意見だったので、見直しは当然だと思う。今後、教科書会社も訂正申請を出すと思う」と話した。一方で、「今回は、検定制度の問題点も明らかになった。削除を決めた審議会がどんな役割を果たしているのか。非公開なので議論の内容も分からない。人選も不透明で、これらも改善してほしい」と注文をつけた。
教科書会社からは、急に状況が変わることへの疑問の声もあった。実教出版の担当者は「政治情勢で振りまわされるのは好ましくない。第三者機関で検定しているのなら、もう少し中立公正であってほしい」と述べた。また「急に変わった印象がある」(東京書籍)▽「国が容認したことが一晩で変わるのは疑問」(別の教科書会社)--との意見もあった。
毎日新聞 2007年10月2日 12時28分