安倍晋三前首相の突然の降板で休止していた国会は、一日の福田康夫首相の所信表明演説で論戦が再開される。
今国会では参院選の結果、衆参両院で与野党それぞれが過半数を握るねじれ現象が生じ、与党側からすれば運営が一気に厳しくなった。調整型の福田首相の対処に注目が集まるが、民主党は早期の解散・総選挙を狙い対決姿勢を強めている。
しかし、仕切り直しとなったのを機に、ねじれ国会の意味をあらためて考えてみると、国会の活性化につながる可能性もある。
前国会では衆参で多数を占める与党側の強硬姿勢が目立った。委員会で野党側の同意を得ぬままの「不正常採決」は過去五年間で最多の十七回に上った。憲法改正手続きを定める国民投票法、教育改革関連三法などが数の力で成立した。政策論争は盛り上がらなかった。
反対に今国会では民主党の強気が目立つ。政策協議を呼び掛けたいとする自民党に対し、民主党は消極的だ。かといって衆院での与党優位は変わらない。このままでは与野党が互いの主張を打ち消し合うだけで、国政が動かなくなる事態も考えられる。
一方が圧倒的に優位でなくなった状況を、互いを否定するのでなく、逆に与野党が政策を磨き合い、高め合うことに生かすべきであろう。ねじれ国会の現状は、見方を変えれば双方が知恵を持ち寄り、よりよい政策を導き出すチャンスになり得る。
今国会の焦点であり、インド洋での海上自衛隊の給油活動継続に絡むテロ対策特別措置法に関し、民主党は延長反対の姿勢を崩していない。自民党側は延長は難しいと見て別の新しい法案を国会に提出する方針で、民主党に協議を呼び掛ける考えだ。
テロ特措法については海自の活動実態の情報開示が不十分なまま、なし崩しに延長してきた政府のやり方に批判が集まった。民主党は先週末、外務防衛部門会議幹部会で、政府に情報開示を求め、情報提供までは協議に応じないことで一致したという。今後、双方のすり合わせを通じ、情報が最大限開示されるようになれば望ましい。
障害を持つ人の負担の大きさが問題になっている障害者自立支援法も民主党が改正法案を参院に提出し、与党も見直す姿勢だ。至らぬ点を話し合いで埋めてもらいたい。
不毛な対立で時間を空費すべきではない。総選挙にらみで相手を追い込むだけより建設的論戦を展開する方が、民主党としても政権担当能力のアピールになるはずだ。
いよいよ郵政民営化のスタートである。日本郵政グループ五社が一日発足し社員二十四万人を数える巨大企業群が動き出す。民業圧迫や地方のサービス低下といった懸念を抱え、多難な出発といえる。
持ち株会社の日本郵政の下に、手紙や小包などの集配業務を行う郵便事業会社、全国約二万四千の郵便局を束ねる郵便局会社、郵便貯金事業を引き継ぐゆうちょ銀行、簡易保険事業を受け継ぐかんぽ生命保険が並ぶ。
ゆうちょ銀、かんぽ生命の巨大な金融二社は個人向けローンや企業向け融資、医療・傷害保険などへ進出を目指している。しかも当面持ち株会社を通じ政府出資が残るため国の信用を背景に仕事ができる。民業圧迫への金融界の不満は強い。特に限られた営業エリアで競合する地方の金融機関には脅威となろう。
新規業務を認めるか否かに関し、有識者でつくる政府の郵政民営化委員会が総務相らに意見を述べることになっている。任務は重大だ。
郵政民営化では全国の郵便局ネットワーク維持が民営化関連法などで定められた。郵便局会社の経営は金融二社などからの手数料収入が柱だ。だが、利潤を追求する両社が将来直営店経営にシフトし、郵便局会社の収入が減る可能性が指摘されている。そうした事態を念頭に、郵便局削減を心配する声は多い。
既に岡山県を含む各地の郵便局で集配業務が廃止され、窓口業務だけになった。共同通信社の調べでは全国の知事の半数以上が郵便局の減少を予想している。高齢者の多い過疎地では不安が募るばかりだ。地方のサービス低下をいかに防ぐか。日本郵政グループだけでなく国として考えていかなければならない。
(2007年10月1日掲載)