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2007年10月1日

◎医療費の負担増凍結 消費税増税の布石では困る

 政府、与党が来年度から予定されている高齢者医療費の負担増を凍結する方針で一致し 、財源の確保策などについて十月中に結論を出すという。福田康夫首相は小泉、安倍両政権の改革路線の継承をうたう一方、社会的弱者に配慮する姿勢をみせている。法律で決まっている高齢者医療費の負担増に待ったをかけるのは、そうした「福田政治」をさっそく具体化するものであり、新政権発足に伴う政策変更は何ら不思議ではないが、医療費の財源論議を消費税の増税論議に結びつけることがないよう、あえてクギをさしておきたい。

 福田首相は、医療費や公的年金など社会保障費の財源を安定的に確保するため、消費税 率の引き上げを検討する考えを示している。前政権が進めた構造改革の影の部分に光を当てることも重視し、高齢者医療費の負担増凍結のほか、障害者の負担増を回避するため障害者自立支援法の見直しなども打ち出している。これら歳出の増加を伴う政策変更を主張する一方で、基礎的財政収支を二〇一一年度に黒字化する従来の政府目標の達成も約束している。

 しかし、財政再建に不可欠な歳入・歳出の一体的改革や公務員制度改革について、福田 首相はまだほとんど何も語っていない。政府の骨太方針などでは、五年間で最大十四兆三千億円を削減する歳出改革や5%以上の国家公務員純減計画、二兆六千億円以上の公務員人件費削減方針などが示されており、これから改革のヤマ場を迎える。その進ちょく具合はどうなのか、さらなるスリム化に福田首相はどう取り組もうと考えているのかを明らかにしてもらいたい。

 医療費の負担増凍結はお年寄りにはありがたいことだが、社会的弱者救済の財源確保を 名目に消費税増税の布石を打つような思惑がもしあるとすれば、受け入れがたい。

 福田首相は官僚と対立するのではなく、官僚の力を生かすことを考える政治家といわれ る。そうした政治手法はよしとしても、公務員制度改革に大胆に切り込めるのかどうか一抹の不安もぬぐえない。今後、独立行政法人の整理なども含めた官僚機構の改革に大ナタを振るうことなしに、消費税増税はあり得ないと認識してもらいたい。

◎金沢の民俗研究 都市づくりに生かそう

 藩政期以来の町並みや遺構が残る金沢は都市民俗の宝庫でもあり、それらは街に潤いや 情緒を与える「隠し味」と言ってよいだろう。金沢市がことし設立した金沢都市民俗文化研究所は古い風習やしきたりを掘り起こす活動に本格的に乗り出すが、行政が取り組むからには、消えかかった民俗を記録するだけでなく、「生きた風習」に光を当て、現代の都市づくりに積極的に生かしてもらいたい。

 都市民俗文化研究所には、すでに市民からさまざまな情報が寄せられているが、古き時 代の民俗を掘り起こす懐古的な活動だけでは研究所としての機能は十分に果たせない。衰退した風習や儀礼は生活の変化に合わなくなったのであり、消えゆくのは時代の必然とも言える。過去の民俗については「加能民俗の会」など民間組織による調査研究の蓄積があり、研究所の活動は「現代」にもっと目を向けるべきだろう。

 たとえば、浅野川では彼岸の深夜に行われる「七つ橋渡り」という風習がある。浅野川 に架かる七つの橋を渡る明治期からの風習で、その日に身に付けた下着を洗って半紙に包んだり、水引をつけてたんすにしまうと「下の世話」をかけずに済むと伝えられている。

 これまでひそかに行われていたが、数年前から女性を中心に参加者が増えてきた。家族 に介護の負担をかけたくないという長寿社会の切実な願いやウオーキングブームが背景にあるらしく、世相を反映して復活した一例である。浅野川の「おんな川」としての情緒を漂わせる風習であり、民俗の現代的な意味を探ることも「金沢らしさ」を掘り起こす取り組みと言える。

 卯辰山麓寺院群は民俗信仰の宝庫であり、言い伝えに基づいた宗教的儀礼が今も盛んで ある。茶屋街にも正月だけ特別な出し物をする伝統などが受け継がれている。そうした「無形の文化」に光を当てることは、伝統的な町並みの価値をさらに高めることにもつながるだろう。

 寺院群や茶屋街も、石川県と金沢市が世界遺産暫定リスト追加を目指す「城下町金沢の 文化遺産群と文化的景観」の構成資産の一つである。民俗研究もそうした動きと足並みをそろえ、戦略的に取り組んでほしい。


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