79年の放送開始以来、多くのアニメに影響を与え続ける「機動戦士ガンダム」。07年末に、劇場版3部作をまとめたDVD「劇場版メモリアルボックス」(1万8900円)が発売される。主人公アムロ・レイ役の古谷徹さんとライバルのシャア・アズナブル役の池田秀一さんに「ガンダム」との出会いと、その魅力を語ってもらった。【河村成浩】
◇「シャアが『やってくれ』」池田秀一さん
--ガンダムとの出会いは
古谷 可愛がってくれた音響監督の松浦典良さんからアムロのオーディションを薦められたのがきっかけです。「アムロは、戦いたくない主人公です」と説明されたときは「え?」となりましたね。アムロは、どこにでもいる少年で、すごくピュアで潔癖症、ガンダムに乗るのも巻き込まれて仕方なく……という設定を聞き、等身大の少年を演じてほしいと要望がありました。従来のアニメでは主人公は熱血ヒーローなので、芝居に比べてオーバーなしぐさをする必要があり、疑問にも思っていた部分がありました。でも、(アムロなら)ぼくが感じてきた日常にトライしてもいいんじゃないかと思って。ぼくは当時、「巨人の星」の星飛雄馬のイメージが強く、熱血ヒーローから脱皮するきっかけになるのではとも思っていました。
池田 ぼくも松浦さんから声を掛けられ、オーディションを受けたんですが、演じてみると、アムロは合わないと思いました。松浦さんを待っているときに一服していたら、安彦良和さんのシャアのイラストと目が合っちゃったんです。「やってくれ」と言っている感じがして、松浦さんに「やらせてくれない?」と言いました。
--ガンダムの魅力は?
古谷 一言では言えませんが、個性的なキャラクターやモビルスーツはもちろん、綿密でち密なストーリーです。未来の人類はガンダムのような問題を抱えてしまう、と思わせちゃうことでしょう。
池田 それまでのアニメは、正義と悪役が分かるのだけど、ガンダムはそれぞれの正義があって、分からないのですよね。ガンダム以降、亜流の作品が登場しましたが、「分からなきゃいい」ってもんじゃないし、それまでのアニメは、「生きる」という哲学はありませんでした。アニメの1話の終わりも、シャアが「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」とつぶやいて終わるのですが、それまでのアニメではなかったやり方ですよね。
◇「純粋さで演じた16歳のアムロ」古谷徹さん
--名せりふが多いですね
古谷 奥が深いですよね。5行ぐらいの内容を1行のせりふに凝縮している。当時は新鮮だったんじゃないでしょうか。
池田 「ごめんよ。まだ、僕には帰れるところがあるんだ。こんなにうれしいことはない」というアムロの最後のせりふが大好きなんですが、「アムロ行きまーす」のせりふも、古谷さんじゃなければ30年も続かなかったでしょう。富野由悠季・総監督という天才がいて、スタッフ全員の役割がはまっていました。
古谷 演じたタイミングもあると思います。いまなら経験も技術もありますが、「世間知らずの純粋さ」など捨てたものもあります。たどたどしいし、語尾もはっきり聞こえないのですが、16歳の少年らしかった。いまやると、ただの物まねになってしまう。
池田 そうそう。シャアの「いい女になるのだな」というせりふも、今だと“邪心”が入るね。
--演じて苦労したのは
古谷 ニュータイプの表現です。ぼくは役を作るとき体験して具現化するのですが、ニュータイプはなれませんから。そもそもニュータイプの設定を知らずに、あるとき、アムロのおでこに走る“稲妻”を見つけ、富野さんに聞くと、「気づいちゃいましたか」って。アムロも最初は自分がニュータイプだと気づいていないので、ぼくが気づくまで待っていたらしいんですね。演技では、目を閉じて“感じた”瞬間に顔を上げ、「そこか!」と吹き込んでいました。
池田 そういえば、富野監督に「アルテイシア(セイラ)ってシャアの妹なの?」と尋ねたことがあるのですが、「ふふん」と返事をされちゃって。妹と知って、芝居が変わるのがいやだったみたいですね。監督はイメージ通りだと何も言わないから。
--ファンが増え続けています
古谷 特に女性層が増えているし、一般に広がりを見せているようですね。海外のファンも大歓迎してくれるし、人類の半分はガンダムファンじゃないですか?
--劇場版メモリアルボックスが発売されます
古谷 当時の全クルー(スタッフ)は、そのポジションに情熱を持っていましたし、映像にも力がありました。あのころはみんなハングリーで、だから歴史に残る名作になったんじゃないかと思います。
池田 シャアを演じていた当時の池田秀一を思い出したい。30年前の音楽を聴いて、その時代を思い出すように、その時代を思い出し、自分を見つめ直す時間になれば、“こんなにうれしいことはありません”
2007年9月30日