1日の郵政民営化で誕生した郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険。巨大さが際立つ4会社は、官の体質から民間企業へと脱皮し、収益力を高めながら、サービスの質も向上させることができるのか。これから始まる大競争の行方を探った。【尾村洋介、野原大輔】
ゆうちょ銀の預金残高は187兆円と世界一。これまで国内最大だった三菱東京UFJ銀行の1.8倍以上もある。かんぽ生命保険の総資産も112兆円で最大手の日本生命保険の2倍以上だ。
ともにこれだけの資金を抱えながら、収益力となるとライバルに遠く及ばない。ゆうちょ銀の07年度下半期の最終(当期)利益見通しは1300億円で、単純に2倍にした年間換算で比べると、みずほ銀行の07年度見通しの半分にもならない。リスクが高い代わりに、もうけも大きい融資業務など禁じられ、これまで低利の国債を中心に運用してきたためだ。
かんぽ生命も民間で売れ筋の変額年金保険などを扱っておらず、利益は少なかった。
このため、ゆうちょ銀は住宅ローンに、かんぽ生命は第3分野商品の発売に、と新規業務への参入を急いでいる。全国の郵便局ネットワークを生かして新商品を売っていきたいところだが、その郵便局会社は、これからゆうちょ銀やかんぽ生命と直接競争する銀行や生損保の商品も取り扱うことができる。
しかも、持ち株会社の日本郵政は17年9月末までに、ゆうちょ銀、かんぽ生命の全株を放出することになっており、同年10月以降、郵便局会社は両社からの委託を受ける義務がなくなる。「他の金融機関と郵便局会社が提携すれば、逆にゆうちょ銀の脅威になる可能性もある」(アナリスト)。
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公社から郵便事業を引き継いだ郵便事業会社の業務は、収益の8割程度を占める封書やはがきなどの非競争分野と、「ゆうパック」などの競争分野に分かれる。封書やはがきは、電子メールの普及などで市場が縮小しているため、民間の宅配業者などと競合する「ゆうパック」など、競争分野の商品の取り扱いを伸ばすしかない。しかし、他の宅配業者との競争はし烈だ。
この分野での、日本郵政公社の06年度のシェアは8.4%で、ヤマト運輸(36.6%)、佐川急便(32.4%)、日本通運(10.7%)につぐ4位。木川眞・ヤマト運輸社長は「ゆうパックは将来、宅急便と大きく競合する」と予想する。
郵便事業会社の強みは全国に郵便局をベースとする集配ネットワーク。ただ、そのネットワークは、集配車の大きさなど、封書やはがきを運ぶのに必ずしも適していない。百貨店などから要望が多いクール設備がついた集配車の数も足りておらず、サービスの質はまだまだ。「ネットワークは広いが、細かい機能がついていない」(物流アナリスト)との指摘も少なくない。
毎日新聞 2007年10月1日 21時08分