2007-09-27
■[メモ]文科系大学院の歩き方
昨日の記事に関して、トラバやリファを通じ、多くの人にコメントをいただいた。皆さん、ありがとうございます。その中に、大学院に来年度入学する学生さんのコメントがあって、僕の記事を読んで不安に思われたようだった。お返ししたコメントの中で、僕は「ある程度の自覚的な用心を持って」、大学院生活をがんばって欲しいとお答えしたのだけれども、あまりにもそれは漠然としているので、ちょっと古い記事になるが、実践的な手引きをコメントの補遺として載せておこうと思う。この文章は、かつて僕の友人が書いたもので、当時もある程度注目されたように思う。大学院の実情と言うやつは、外からは見えにくいからだろう。入ってしまえば、どれもこれも「なーんだ、当たり前じゃん」ということばかりが書かれてあるが、入る前に知っておくのと、入って痛い目を見てから知るのとでは、いささかその後の生活にも差が出てくるだろうから、今、この文章を再掲する意味も多少はあると思う。あの頃と少し事情は変わっているので、時流にそぐわない点もあるかもしれないけれど、基本的な注意事項というのは代わっていないように思う。いくつかの文章の不備を訂正し、さらに少し加筆して再掲する。もちろん、元の文章作成者である僕の友人に、加筆・改変・再掲の許可は取った。
1.まずは枕詞。「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」
ダンテの神曲からの引用がこんなにふさわしい場所というものを、僕は他に知らない。文系大学院に入る人は、全ての希望をまずは捨て去らなければいけない。研究が出来るということ、知的興奮に身を浸せるということ、これは確かに何にも変えがたい喜びではあるんだけれども、それが「金」や「仕事」に極めて結びつきづらいのが文系の研究なのだ。入学式が終わり、初めて学科別の共同研究室に招かれ、出来立ての学生IDを渡された際に、学科主任の開口一番の台詞を僕はいまだに忘れられない。「まあ、卒業しても、とりあえず普通の仕事はないと思ってください。」
2.大学院に入ったら、まずは教職免許取得の手続きを
運悪く(?)大学院に入ってしまったとしたら、全てをなげうって研究するしかない。だけど、その前に、わずかな保険くらいはかけておいたほうがいい。教職があると、象牙の塔から逃げ出すとき、ほんの少しだけ心にゆとりを持てる。教職は、大学院生にとっては「やくそう」みたいなものだ。あっても実は役に立たないことも多いが、もしかするとこれのおかげで、首の皮一枚繋がって「きょうかい」に駆け込み、「ふっかつのじゅもん」を書き留めることが出来るかもしれない。そして、もし教職を取るなら、文系ならちょっと無理をしてでも、たとえ専門外でも、「英語」を取っておくと何かと役に立つ。公募の数が違う。
3.教授選びはくれぐれも慎重に
大学院生活の大半は、指導教官との出会いで決定する。研究者として優れていても教育者としては駄目な人もいるし、またその逆も多い。あるいは両方とも優れている偉人もいれば、両方ともダメな給料泥棒の様な人物もいる。入ったときに自動的に教授が決定する大学院は仕方がないけれど、入ってから指導教官決定まで選択の時間がある大学院は、研究室の先輩などにくれぐれも各教授について詳しい話を聞いておくこと。
4.TAなどを通じて、主査以外ともつながりを作っておくのがいい
大学院において指導教官である主査の力は絶対だ。だからこそ、上の項目で書いたように教授選びはその後の命運の大半を決める。だが、大学院生はいつでも「保険」を作っておくべきであるという観点からもう一つオススメしておきたいのは、主査以外の大学教授とある程度顔見知りになって、相談できる程度の関係を作っておくこと。TAや学内バイトなどを率先して受けておくと、そういう関係は自然と出来てくる。こういう主査以外の教員との繋がりが、未然にパワハラ・アカハラ・セクハラを防ぐよすがになり得るし、もし不幸にもそういうハラスメントの被害にあっても、助けを求めることが出来る。教授に対して、学生は徹底的に無力である。これは絶対の事実。だが、教授同士の力関係は非常に微妙なのだ。利害関係の少ない教員と、「ある程度」、仲良くなっておくことを勧める。ただし、「ある程度以上」は厳禁。気にしない人格者もいるが、結構大学教授は嫉妬深いので。
5.奨学金は慎重に
育英会などの奨学金を利用するのは大いに結構だけれども、借金が凄い。これ、出た後に響いてくるので、奨学金の利用は内実を良く調べて、ご利用は計画的に。安易に借りると痛い目を見る。「アカポスを取れば返さなくていい!」というが、条件が異様に厳しいので結局全額返すはめになる。育英会に関して言えば、2年で200万以上も借りることになる。目もくらむような額。出来るだけ、大学から出ているような「学費支給」などの、返済しないでいいものを選ぶ。そして、TAなどでお金はまかなえるようにしておく。
(補記)この項目について、id:next49さんよりトラックバックにて情報をいただきました。今は育英会などの奨学金事業は日本学生支援機構に引き継がれております。院生用の細則も変わったようです。詳しくはnext49さんのこちらの記事(http://d.hatena.ne.jp/next49/20070927/p1)をご参照ください。
文科系の大学院の世界は、実力の世界なんかじゃ決して無い。これは「実力がなくてもいい」っていう話じゃない。「実力は、あって当たり前」の世界で、それはその院生の価値を殆ど上げないのであった。みんなそれなりに賢いし、みんなそれなりにがんばれば出来る奴ばっかりなのだ。そういう世界で物をいうのは、社会性の高さ、つまり「コネ」だ。で、大学院生がコネを作る場所は、学会(勉強会なども含む)しかない。そういうところで培った人脈によって、その後の細かい仕事の舞い込む確率は、格段に変わってくる。
7.とはいえ、研究室に入り浸り、学生同士で仲良しこよしは避けたほうが無難。
大学院は「横のつながり」が非常に大事なんだけれども、研究室にいりびたるようになってしまうと、研究室は「井戸端会議室」にはやがわりする。教授の悪口、将来への不安。主に大学院生の話題はこの二つなんだけれども、これほど不毛な会話もまたとないのだった。研究、特に文科系の研究は、一人でやるものだというのは常に意識しておくべき。
8.「アカポスさえ手に入れば・・・」と幻想を抱きすぎるのは危険
あまりにも酷い院生時代の状況から、アカポスに過剰な幻想を抱きがちだけれども、アカポスを貰っても仕事が楽しくなるかどうか、実際には疑問が多い。勿論、もらえない人が殆どなわけなんだけれども、僕が言いたいのは、仕事は他にいくらでもあるということなのだ。研究職といっても、大学の仕事というのは基本的に「事務作業」と「教養授業」で出来上がっている。院生が授業をしたいような「専門分野の授業」など、すずめの涙ほどしかない。事務作業は面白いわけないし、多くの大学の教養授業は最近は崩壊している。特に文科系の場合、大学の教師になっても「教えることの喜び」なんてのは、殆ど無いと思ったほうがいい。というか、生来「研究的」な人間は、多くの場合教師に向いていない場合が多いのだ。せっかく無理して無理して無理して、地べたをはいずる様な艱難辛苦を乗り越えようやく専任を獲得したのに、着任二年目あたりに大きな病気を患って大学を辞めた専任教員を、僕は2人ほど知っている。それまでの過酷な努力と、それにも関わらずさらに増えていくストレスのせいで、ぷっつりいっちゃうんだろうと思う。こんなことになるくらいなら、さっさとアカポスなど諦め、他の職業に就いたほうが時間を自由に使えるし、そのあまった時間で研究をしたほうが、多分精神的にはゆとりがもてるのだった。
とはいえ、やっぱりないよりあるほうがいいに決まってるんだけれど。言いたいことは、「ここ(アカポス)は決してゴールじゃない」ということ。当たり前のことだけれど、忘れがちになる。
9.一瞬でも迷ったときが辞め時
上の話の続きになる。成就しても、よほどの覚悟がなければやっていけない研究生活であるから、曖昧なままにずるずると時間ばっかり伸ばすのが、大学院では厳禁。一年経つごとに社会との距離が遠くなっていくと思ったほうがいい。ちょっとでも自分の資質や研究の意義などに迷いが出たら、さっさと辞めとく。モラトリアム博士にだけはならぬよう。
10.卒業後の収入に関して
少ない人は限りなく少ないが、人によってはわけわからんくらいに非常勤を抱えてて、年収600万とか言う人もいる。さすがにこれはやりすぎだし、健康を害するし、何よりも研究が出来ない。研究との兼ね合いを考えると、年収250万から300万程度の仕事に、多くの人は就く様だ。
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