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リタリン:乱用で義父殺害 「ずさん処方 審査強化を」

 幻覚妄想など重い副作用のある向精神薬「リタリン」。その副作用が引き金となり凶悪事件に発展したケースもある。東京都町田市で昨年1月、リタリンの乱用で幻覚妄想状態となった男性(42)が義父を殺害し自宅に放火した。東京地裁八王子支部は今年7月、「リタリンの副作用で善悪を識別する能力が欠如していた」として、男性に無罪を言い渡した。関係者は「背景には医師のずさんな処方があり、それを改めない限り、第2、第3の悲劇が起こりかねない」と指摘している。【精神医療取材班】

 判決などによると、男性は06年1月13日、電気ドリルやナイフ、ドライバーを使って同居していた義父(当時69歳)を執拗(しつよう)に刺し、出血性ショックで死亡させた。男性は自宅に放火して逃げたが、警視庁町田署員に殺人と放火容疑で逮捕された。

 男性がリタリンを使い始めたのは04年7月。市内のクリニックの医師は当初1日1錠を処方したが、3カ月後には1日3錠に増えた。その後も男性の要求に応じて医師の処方量は増え、05年10月ごろにはリタリンによる幻覚妄想の副作用が出るようになった。

 リタリンの処方は1日2~3錠と定められているが、事件の2日前、医師は男性に1日10錠、1週間分計70錠を処方した。男性は事件直前、この70錠を短時間で一気に飲んでいた。

 男性が捜査段階や公判で「夢の中で主から『抹殺しろ』とメッセージがあった」などと供述したため、責任能力の有無が焦点となり、2度の精神鑑定が実施された。

 検察側は「リタリンが誘発する精神疾患で著しい幻覚妄想状態だったが、人を殺害したという認識や善悪を識別する能力はあった」と主張し、懲役10年を求刑。弁護側は「(リタリンによる)著しい幻覚妄想に支配され、善悪を識別し行動する能力を完全に失っていた」と反論した。

 小原春夫裁判長は、男性の殺意は認めたものの「著しい幻覚妄想状態の全面的な支配下にあったことが強くうかがわれる」として無罪とした。リタリンの重い副作用を認めて無罪とする判決は極めて異例。事件は検察側が控訴し、10月中にも東京高裁で審理が始まる見通しだ。

 男性の弁護人の南部憲克弁護士は「レセプト(診療報酬明細書)審査を強化するなど、国は医師の処方をチェックする体制を早急に整備すべきだ」と訴えている。

毎日新聞 2007年10月1日 3時00分

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