二百十日の時節に、前代未聞の「政権投げ出し台風」が列島を襲った。人々があきれ、怒り、いささか同情もした9月の言葉から。
「首相辞意」の報は津々浦々を駆けめぐった。JR大津駅前で客待ち中の個人タクシー運転手、伊藤市蔵さん(65)は「そもそも器として無理があり、4人乗りのタクシーに6人乗せたような感じだった」。驚きの中に「やっぱり」の思いが混じる。
安倍氏の地元の下関市に住み、親交のある直木賞作家、古川薫さん(82)は「首相はお人よし。酒を飲まず、食も細い。政治家は大酒を飲み、たくさん食べ、それがバイタリティーになる」。「可哀想で、不運な男」と残念がった。
だが驚きもつかの間、関心はすぐ後継選びに。東京の渋谷で街頭演説を聴いた大学院生、鈴木洋さん(26)は「麻生さんに共感する。だけど今は国内がぐちゃぐちゃ。まずバランスのとれた福田さんが政権につき、そのあと麻生政権になれば」
一騎打ちの軍配は親子2代の福田氏に上がった。新首相への期待は老若を問わず身近な政策だ。青森県で、21歳の大学生佐々木彩乃さんが「一番気になるのは年金。ちゃんと払って満額もらいたい」と言えば、87歳の高松ソデさんは「これからの老後の歩む道を、楽に進みたい」
「大事なのは人々が生きていくのに欠かせない安心感を作り出していけるか。その視点がなければ短命に終わる」と、福田氏の地元群馬に住む哲学者の内山節さん(57)。前首相の面影はすでに遠く、台風一過の国会が週明けから始まる。