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高齢者医療費 場当たりの凍結でなく

9月30日(日)

 来年4月に予定している高齢者医療費の自己負担引き上げを「凍結」する方針を与党が固めた。野党も見直しを強く求めている。

 年を取れば病気になりやすく、医療費の支払いはかさみがちだ。高齢者の負担増が避けられることは、歓迎したい。

 しかし、参院選の惨敗、安倍内閣の退陣を受けて「凍結」を打ち出したのは、余りにも唐突だ。財源をどうするのか。いつまで先延ばしするのか−。人気取りではなく、医療費全体の枠組みを踏まえ、高齢者医療の在り方を見直すべきだ。

 医療制度改革は昨年6月に決まった。医療費を抑えるために、高齢者を中心に負担増を求めるものだ。

 昨年10月から、現役並みの所得がある70歳以上の人は、窓口負担が2割から3割に増えている。慢性の病気の患者を長期間受け入れる療養病床も、食費などが全額自己負担となった。

 来年4月には、所得の少ない70−74歳の人も、窓口負担が1割から2割になることが決まった。75歳以上が対象の「後期高齢者医療制度」もつくり、新たな保険料を徴収する予定だった。

 それが、自民党総裁選を機に「見直し」が浮上した。福田康夫氏の公約でもあり、新政権誕生後は一気に具体化しつつある。

 高齢者の医療費の引き上げが続き、介護保険の負担も大きくなった。医療費が上がらずに済めば、ほっとするお年寄りは多いはずだ。

 しかし「凍結」という中途半端な施策で片付く問題だろうか。

 厚生労働省の試算によると、窓口負担を今のままにした場合、1300億円前後の財源が必要になる。後期高齢者医療制度の新たな保険料負担も凍結すると、約400億円を国が肩代わりしなくてはいけない。

 この金額を誰が、いつまで、負担するのか。あいまいな検討で踏み切るのでは後で困らないか。

 一部の窓口負担は既に引き上げられている。来春の引き上げ分だけの凍結では、高齢者の間でも不公平が生じることになる。

 これまで診療報酬の引き下げなど医療費抑制策が続いてきた。その一環で高齢者の医療制度を変えたのに“朝令暮改”では、選挙目当ての対応としか受け止められない。

 高齢化に伴い、今後も医療費は増える見込みだ。無駄をはぶき、質の高い医療を提供するにはどうするのか。十分に検討してから、国民に理解を求めるのが筋だろう。

 場当たり的な対応が続けば、国民皆保険の制度も揺らぎかねない。