本紙で何度も報じていたので迂闊(うかつ)だったが、ヤンゴンはもうミャンマーの首都ではない、と反政府デモを伝える記事を読んでいて気付いた。新しい首都ネピドーは、最高権力者のタン・シュエ氏がその座に就いて以来かれこれ15年もかけて造ってきたという。
▼「最大都市」ヤンゴンでさえ電気が通じる時間は1日2時間しかなく、実際のインフレ率は30%を上回る。厳しく抑え込まれた反政府行動が一気に広がったのは燃料価格の引き上げがキッカケだった。それほど困窮する国民に目もくれず首都建設にうつつを抜かすのが軍事政権の正体だ。
▼日本の通信社の契約記者・長井健司さんが、デモを取材中に銃弾を浴び亡くなった。イスラエル占領下のパレスチナで仕事をした経歴から、住民と治安部隊が衝突する中で取材者として身の守り方は十分心得ていただろう。ミャンマー政府の武力行使が長井さんの経験を超えたむちゃくちゃさだったのではないか。
▼この軍事強権国家にとって日本は主要な経済援助国だ。政府の建物や鉄道駅などの工事が今なお進むネピドーはミャンマー語で「王の都」を意味する。自ら造る街にそういう名をつけ、批判する民主運動家を家に閉じ込め、デモ隊には無差別に銃を放つ。そんな独裁者に、我々は援助を与え続けて良いのだろうか。