福田新政権が発足した。参院の与野党逆転で「背水の陣内閣」と自ら命名した。まさかの安倍氏の政権投げ出しで巡ってきた首相の座。一歩かじ取りを誤れば、新首相は政権を失う。がけっぷちに立たされた前途多難な船出だ。
麻生前幹事長と争った自民党総裁選で福田氏が選出された時の、本紙社会面の見出しは「勝ち馬志向で“雪崩”」。共同通信政治部長は「総裁選で明らかになったことがある。『負け組』になりたくないという勝ち馬シンドローム(症候群)だ。優勢とみられる候補に一気になびく。昨年の総裁選では安倍支持に向かった」と特別評論で分析していた。論功行賞。その後の処遇を考えれば、勝ち馬に乗るのは政治の世界では当然なのかもしれない。
しかし、十六人の小派閥を率いる麻生氏も総裁選で得票率37・4%と善戦した。むしろ、派閥の枠を超えて中間層や、地方の票は麻生氏側に“雪崩”を起こしたともいえる。負け馬に乗った人も大勢いたわけだ。
勝ち組、負け組との言葉がもてはやされたことがあるが、なんと品格のない言葉だろう。勝負は時の運とも言う。まさか安倍氏の復権はなかろうが、麻生氏は捲土(けんど)重来を期しているはずだ。
それにしても、福田新内閣の華々しい出走の影で、やつれた表情の安倍前首相が花束を手に官邸を後にする写真が紙面に載っていた。一年前の勝ち馬に、惻隠(そくいん)の情を禁じえない。政治の世界は「一寸先は闇」だ。
(広島支社・本多薫)