文部科学省は、大相撲時津風部屋の十七歳の新弟子がけいこ後に死亡した問題で、日本相撲協会に対して真相究明と関係者の処分など五項目を指示した。指導は異例で、相撲協会の監督官庁として文科省が乗り出した形だ。
新弟子は、六月に愛知県でのけいこ後急死した。記者会見した時津風親方は、制裁目的の暴行やけいこの行き過ぎを否定し「ぶつかりげいこの直後に息が荒くなった」などと話していた。
遺族は遺体の額の切り傷や全身の傷などから「相撲でできるようなけがではない」と強く真相究明を求め、行政解剖が行われた。解剖の結果、多発外傷によるショック死の可能性が出たことで、愛知県警は制裁目的の暴行があったとして親方や部屋の兄弟子ら数人を立件する方針を固めたとされる。
県警に対し、時津風親方は「ビール瓶で額を殴った」と暴行の事実を認めている。兄弟子らに「かわいがってやれ」と指示し、長時間のぶつかりげいこで新弟子が倒れても、けるなどの暴行が加えられたという。兄弟子の一人は「金属バットで殴った」と話している。
角界には「かわいがり」と呼ばれる厳しいけいこが知られる。けいこで鍛えなければ強くならない。だが、ビール瓶や金属バットで殴るのは異常だ。決して許されない。警察は徹底的な捜査で真相を解明してもらいたい。
相撲協会の認識の甘さにもあきれる。北の湖理事長は「警察にお任せするのが一番」と、当事者意識の欠如を露呈していた。問題が深刻化したことで、理事長発案によって力士の指導に関する検討委員会を九月二十七日付で発足させ、生活指導部長ら三理事が話し合いを始めて方向性を決める方針だった。
協会の対応に「待った」をかけたのが文科省だ。二十八日に北の湖理事長を呼び出し、理事長が「警察にお任せ」としていた真相究明を、警察の捜査と並行して協会独自に行うよう指示した。また、過去の類似事例の検証や、前日発足させた検討委員会に外部の有識者を加えることも求めた。当然のことばかりだ。
大相撲は国技であり、伝統と文化を重視する。大切なことではあるが、それが閉鎖体質となり、暴力がはびこるようでは社会の支持は得られない。文科省の異例の指導は、相撲協会の自浄努力に任せておけないとの判断と受け止めなければならない。協会は厳しく反省し、もっと外部の目を導入するなど、組織や運営の在り方を抜本的に改める必要があろう。
大規模な反政府デモが起きたミャンマーで、軍事政権の武力弾圧によって市民らに多数の死傷者が出た。取材していた日本人映像ジャーナリスト長井健司さんも犠牲になった。
長井さんはミャンマー最大の都市ヤンゴンの路上で銃弾を受けた。当初は治安部隊による威嚇射撃の流れ弾が当たったと伝えられたが、目をそむけたくなるような現場の映像が世界に流された。
映像では、取材中の長井さんに近づいた隊員が狙い撃ちしたように見える。事実なら明らかに殺人だ。国連本部を訪れていた高村正彦外相はミャンマーの外相に「報道を見る限り至近距離から射殺されており、流れ弾ではない」と事件の全容解明を要求した。
これに対しミャンマー側は「日本人が亡くなったことは誠に申し訳ない」と謝罪した。この程度の対応で済む話ではあるまい。日本政府は三十日に外務省幹部をミャンマーに派遣し、事件の徹底捜査と関係者の厳正処分を求める。納得がいくまで厳格な姿勢を貫いてもらいたい。
軍政当局はデモを主導してきた僧侶を大量に拘束したり、主な僧院に軍隊を駐留させるなど国民の尊敬を集める僧侶も容赦なく弾圧する姿勢を明確にした。国際社会が結束してミャンマーの民主化を早急に促すべきだが、足並みはそろわない。
軍政への圧力強化を訴える欧米諸国に対し、資源取引でミャンマーとつながりが深い中国やインドは控えめな対応に終始する。福田康夫首相は各国の動向を見守る考えを示すが、圧力を強める必要があるのではないか。ミャンマーには技術協力などの支援を続けており、少なくとも軍政下での援助の在り方は再考すべきだろう。
(2007年9月30日掲載)