2007年09月30日 更新

【大相撲】時津風親方、斉藤さんを見殺し…関係者が証言

 大相撲時津風部屋の時太山(ときたいざん)=当時(17)、本名・斉藤俊(たかし)さん=がけいこ後に急死した問題で、死亡の直前、時津風親方(57)=元小結双津竜、写真=が、しごいた兄弟子らを遠ざけ、斉藤さんと2人きりになりながら介抱せず、病院への搬送もすぐに指示しなかったことが29日、関係者の証言でわかった。愛知県警は立件に向けて、最終的な詰めの捜査を進めている。

 県警や複数の関係者の証言で、斉藤さんの死亡直前の凄惨な状況が明らかになった。

 それによると、6月26日午前10時ごろ、愛知・犬山市の時津風部屋で朝げいこが終了。親方の指示で4、5人の兄弟子が残され、斉藤さんとのぶつかりげいこが始まった。

 親方は土俵脇でしばらく様子を見た後、風呂や食事のため宿舎に移動。約1時間後に戻り、ぐったりした斉藤さんを見て、「あとはわし1人でみるから、おまえらは風呂に入れ」と指示し、兄弟子らを遠ざけた。

 けいこ場には斉藤さんが取り残される形で約20分間、2人きりだったが、この間に斉藤さんを介抱するなど救護措置は行われなかった。

 その後、親方の呼びつけで駆け付けた兄弟子らが意識がない状態の斉藤さんを見つけた。あざがはっきりと浮き出て体全体が土気色だったが、かすかに息はあったという。親方の指示で水がかけられたが次第に体が冷たくなり、今度は温めようと風呂場に運び、湯をかけたが意識は戻らなかった。

 この間、兄弟子たちが救急車を呼んだ方がいいのではとざわつき始めたが、親方はすぐに救急車を呼ぼうとしなかった。結局、部屋が119番したのは同日午後零時50分ごろだった。

 親方は、2日後の28日に、自分の部屋に関取衆を除く弟子らを呼び、暴行に金属バットが使われたことや自分が斉藤さんをビール瓶で殴ったことを漏らさないよう指示。その後、ほぼ連日、弟子らを集めて県警の聴取に何を聞かれ、話したかを詳細に報告させ、「聴取が長引くとよくないからみんなで供述を合わせよう」と口裏合わせを求めたという。

 ある弟子が金属バットについて話したと報告すると、親方は「なんで本当のことを言うんだ」としかったという。時津風親方はすでに、当局の調べに、暴行を認めているとされている。

★部屋関係者の証言

 時太山が死亡した当日や、前日に受けた暴行の生々しい様子を部屋関係者が証言した。

【逃亡】6月25日午前11時ごろ、斉藤さんが逃亡したことに兄弟子らが気付いた。近くのコンビニ前にいるのを見つかり連れ戻される。兄弟子から殴られた。

【説教】同日午後6時ごろ、夕食で「逃亡」の罰として斉藤さんは時津風親方の斜め後ろに正座させられた。斉藤さんが「心を入れ替えます。すみませんでした」と許しを求めると、兄弟子は「だまって正座しとけ」と怒鳴り、親方は「何十年も相撲界にいるが、おまえみたいに根性のないやつは初めてだ」と説教した。

【制裁】同午後7時ごろ。親方は飲み終わったビール瓶で斉藤さんの体を数発殴った。最後に額のあたりを強めに殴り血が流れた。親方は兄弟子らに「おまえらもやってやれ」と指示。3人が「根性いれてきます」と言って、部屋の裏手や宿舎の外で30分以上、素手や金属バットで暴行を加えた。兄弟子らは親方の前に連れて行き謝らせたが、親方は「駄目だ。何度おまえにだまされたか」と突き放した。

【死のぶつかりげいこ】翌26日。午前10時ごろにけいこが終わると、間もなく斉藤さんに対して「かわいがり」と呼ばれる集中的なぶつかりげいこが始まった。兄弟子一人が胸を出し、ほか3、4人が取り囲む形で、斉藤さんが倒れると足げにしたりした。親方もそばで見ていた。ぶつかりげいこは1時間以上続いた。

【介抱せず】その後、親方は兄弟子たちに続けさせたまま、風呂と食事を終えて帰ってくると、「後はわしが面倒を見る。おまえらは風呂に入れ」と言い、けいこ場で斉藤さんと2人きりになった。その間約20分。「あー」という斉藤さんのうめき声が聞こえた。

【死亡】午後零時半ごろ、斉藤さんが意識不明になり、体全体が土気色に。水をかけた弟子たちは「救急車」とざわつき始めたが、親方は呼ぼうとしなかった。湯でも意識が戻らず、親方もようやく救急車を呼ぶことを承諾。午後零時50分に119番し、斉藤さんは病院に運ばれたが、午後2時10分に死亡した。

★日本相撲協会は

 北の湖理事長(54)=元横綱=は、暴行を認めているとされる時津風親方から、早ければ10月1日にも事情聴取することを明らかにしている。

 同理事長は28日、「きちんと事実を把握したときには、協会独自で処分する考えがある」とし、暴行への関与が確認された場合は、警察の立件を待たずに厳しい処分を下す意向を示した。協会のルール、寄付行為が定める賞罰規定でもっとも重い「解雇」の可能性もある。

 北の湖理事長は前日、協会の監督官庁である文部科学省の呼び出しを受け、渡海大臣らに事情を説明し、謝罪。(1)警察の捜査と並行して(協会独自に)真相を究明する(2)結果を踏まえて関係者を処分し、必要な措置を講ずる−など5項目を言い渡され、文科省の指導に従うことを表明した。

★白鵬が来日“かわいがり”を批判

 大相撲秋場所で横綱として初優勝した白鵬が29日、横綱昇進などを祝うパーティーに出席するために帰国していたモンゴルから、日本に戻った。

 時津風部屋の序ノ口力士が、兄弟子から暴行を受けて死亡したとされる一件で、いわゆる“かわいがり”に触れ「いま、かわいがりをしたら、みんな逃げちゃう。よくないこと」と、横綱としての立場から意見した。自らも三段目、幕下時代に数回、先輩力士から“かわいがり”を受けた経験を明かし、「本当にきつかった。最後は心臓がついていかなかった」と振り返った。白鵬は来月2日以降にけいこを再開する予定。