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【萬物相】火葬場は「必需施設」

 1931年、熊本県のあるヤクザが一獲千金を夢見て朝鮮に渡ってきた。彼はすぐに京城府(朝鮮総督府下の行政単位)に出向くと、ソウル・アヒョン洞の廃業した火葬場の整理を買って出た。そして遺灰の中から、2500ウォン分もの金歯や金の指輪を拾い集めた。これは現在の貨幣価値に換算すると3億ウォン(約3800万円)にもなる。この話が「第一線」という雑誌に掲載されるや、全国の火葬場にはまるで金鉱のように人が群がった。「虎は皮を残し、人は金を残す(本来の格言では、人は名前を残す)」という流行語が生まれたほどだった。

 日帝は1902年と1911年、ソウルの新堂洞とアヒョン洞にそれぞれ火葬場を一つずつ建設した。そして1929年、これらの火葬場は弘済洞に移された。当時韓国人は火葬を「倭葬」と呼び、忌み嫌った。そのため京城府には「悪臭が耐えられない」とし、移転を求める陳情が絶えなかった。いわゆる嫌悪施設が自分の地域に作られることを拒否するNIMBY(ニンビー、「自分の裏庭には勘弁してほしい」を意味する言葉)現象の元祖とも言ってよいだろう。その後1970年に弘済洞の火葬場が京畿道高陽市碧蹄洞に移転してからというもの、ソウルに火葬場が作られたことはない。

 城南市は先日、非居住者の火葬場使用料をこれまでの30万ウォン(約3万8000円)から100万ウォン(約12万5000円)に引き上げることを決めた。城南市民は5万ウォン(約6300円)で済むため、非居住者に20倍の負担を強いることになる。釜山市も非居住者に対し、釜山市民の4倍に当たる約35万ウォン(約4万4000円)の使用料を課す条例改正案を準備している。やや行き過ぎの感もあるが、住民の反対に押されて火葬場の建設を保留している周囲の自治体に圧力を加えるためには、こうした方法しかないという主張には一理あると言わざるを得ない。

 韓国では火葬の占める割合が1970年には10.7%に過ぎなかったのが、昨年52.6%にまで上昇した。地域別に見ると、27%の全羅南道や29%の忠清北道はまだ土葬の習慣が色濃く残っているが、75%の釜山や69%の仁川、65%のソウルでは完全に市民権を得た模様だ。一方、韓国には火葬場が全国で45カ所しかない。釜山・大邱・仁川・光州・大田といった大都市にも、それぞれ1カ所ずつしかないのが現状だ。火葬場建設の話が出ただけでも不動産価格が低下すると騒ぎ立てる人々は、火葬場建設に反対するためには自治体首長の落選運動や住民訴訟すらいとわない。

 中国の墓地の延べ面積は1933年の時点ですでに10万3000平方キロメートルに達し、韓国の国土面積を超えている。毛沢東が1956年に火葬を義務化する「埋葬文化革命」を開始していなかったなら、今ごろ毎年600万人にのぼる死亡者の墓で中国の国土は埋め尽くされていたことだろう。

 韓国政府が来年5月に施行する「葬事等に関する法律」は、各地方自治体が1カ所以上火葬場を設置することを明文化した。しかしこの法律が施行されても、自治体ごとに建設場所をめぐって問題が生じるのは間違いない。住民の意識が変化するのを待つより先に、まずは「嫌悪施設」という名称を変えてはどうだろうか。なぜなら火葬場やゴミ処理場は、人間の生活には欠かせない「必需施設」だからだ。

文甲植(ムン・ガプシク)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報JNS
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