現在位置:asahi.com>社説 社説2007年09月25日(火曜日)付 安倍内閣に幕―右派政権の成果と挫折安倍内閣がきょう総辞職する。突然の辞任表明だったが、くしくも政権発足からちょうど1年の日に、幕となる。 順風満帆の船出だった。1年前の自民党総裁選で大勝し、出だしの内閣支持率は60%を超えた。憲法改正や教育再生などの野心的な課題を掲げ、長期政権への意欲をみなぎらせていた。 健康問題もあって最後は政権を投げ出す形になった安倍氏だが、こんな短命で終わるとは本人も予想外のことに違いない。断腸の思いだろう。 終わり方はひどいものだった。だが、だからこの政権はまったくだめだったと決めつけるのはフェアでなかろう。この1年、私たちは安倍政権に批判的な主張をすることが多かったが、評価すべき点がなかったとは思わない。 最大の功績は、小泉政権時代に極端にささくれだった中国、韓国との関係修復に果敢に動いたことだ。 とくに中国とは「戦略的互恵関係」というキーワードを作り出し、就任直後の訪中に続いて今春には温家宝首相を迎えるなど、首脳の相互訪問を再開させた。 関係悪化の原因となった小泉前首相の靖国神社参拝について、安倍氏はもとより積極推進派だった。だが、首相としては自らの参拝を控えた。関係正常化こそが国益に利するという、大局的な判断によるものだろう。右派政治家だからこその英断だった。 本人が最大の成果と強調したいのは、憲法改正の手続きである国民投票法を憲法60年にして初めてつくったことだろう。教育基本法の改正と並んで「戦後レジームからの脱却」の2本柱だった。 防衛庁を「省」に昇格させたのも、憲法改正で自衛軍をつくることへの一里塚として特筆したいに違いない。 ただ、こうした形づくりは右派政権としての誇るべき成果のはずなのに、内実が伴わなかったうえ、政権浮揚にほとんど結びつかなかったのは皮肉なことだ。 国民投票法の成立強行で与野党協議の場は壊れ、改正の機運は逆に遠のいた。教育再生会議の論議は迷走し、防衛省のもとで集団的自衛権の行使を認めようという狙いにも展望を開けなかった。 靖国参拝の見送りに対し、右翼論壇や首相のブレーンら身内から激しい批判を浴びせられたのはつらかったに違いない。従軍慰安婦やA級戦犯などをめぐる主張も、以前のように歯切れ良くはいかなくなった。国を背負う首相の立場の重さを思い知ったのではないか。 日々の政治は、格差や年金記録の問題、閣僚の「政治とカネ」の不始末などの対応に追われた。「戦後レジームからの脱却」に関連した施策は、むしろ国民意識とのズレを浮き彫りにし、首相の資質に疑問を抱かせることにもなった。 この政権はなぜ挫折したのか。政権最後の日々を病床で過ごした首相は、どう総括しようとしているのか。元気になったら一度、胸中を語ってもらいたい。
新たな貧困層―知恵を出せば救えるその日の糧を得るのは、主に短期のアルバイトや日雇いの仕事だ。住む家はなく、インターネットカフェや漫画喫茶の狭い個室に寝泊まりする――。 そんな「ネットカフェ難民」とも呼ばれる人たちが全国で約5400人に上ることが、厚生労働省の調査でわかった。これまでのホームレスとは違う新たな貧困層が、じわりと広がっている。 「仕事を辞めて家賃を払えなくなった」「寮や住み込み先を出ざるを得なくなった」。住まいを失い、都会を漂流するような暮らしを始めたのは、たいていはそんなきっかけからだ。 もともとネットカフェは、パソコンで遊んだり仕事をしたりできる施設だ。それを寝場所にする人が現れたのは、24時間営業し、ひと晩1500円ぐらいまでの低価格で過ごせる店があるからだ。 生活は綱渡りだ。仕事が途絶えると、所持金はすぐ底をつく。より安く過ごせるファストフード店へ移ったり、時には野宿をしたりする人もいる。 驚いたことに、こうした暮らしを続けているのは若者だけではない。厚労省の調査によると、20代に続いて多いのは50代の人たちで、全体の2割を超えていた。幅広い年齢層の問題なのだ。 このまま何の対策もとらずにいれば、貧困層はますます広がっていく。それは本人のためにならないだけでなく、社会を不安定にする要因にもなる。 厚労省も事態を重くみたのだろう。来年度から専門の相談窓口をつくり、仕事の紹介などに乗り出す。 それは大いに歓迎だが、職探しを支援するだけでは足りない。 ネットカフェなどで寝泊まりする人が相談窓口やハローワークへ行く場合、たいていは仕事を休まなければならない。すると、たちまちその日の生活費に困ってしまう。求人を見つけても履歴書に書く住所がない。だからといって、先に住まいを探そうとしても、アパートを借りる敷金がない。 大切なのは、生活を安定させる手だてを全体として考えることだ。家賃の安い住宅を用意したり、住み込みの仕事を紹介したりするなど、住まいの確保を手助けするのもその一つだ。一時的に必要な金を工面できるよう、低利の貸付制度もほしい。仕事が見つかるまで、生活保護制度を活用することも考えられる。 国や自治体だけでなく、民間の手や知恵も差し伸べられれば、さらに目配りのきいた支援になるかもしれない。もちろん本人の努力が欠かせないが、少しの手助けで生活の基盤さえ整えば、安定した生活や自立につなげられるはずだ。 見過ごせない問題はまだある。厚労省の調査では、こうした暮らしをする人たちの多くが、年金や健康保険に入っていなかった。このままでは、厳しい生活が将来にわたって続くことになる。 格差社会を象徴する課題でもある。手遅れにならないよう対策を急ぎたい。 PR情報 |
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