ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 曲がり角の文芸誌 若手や他分野の才能にも門戸2007年09月26日 文芸誌に掲載される小説が最近、変容している。エンターテインメント系の作家や若手作家を積極的に登用する一方、劇作家や映画監督、イラストレーターら異ジャンルの才能にも門戸を開き、従来の文芸誌には載らなかったような小説も見られるようになった。純文学の“本拠”だった文芸誌は今、曲がり角にさしかかっている。
9月発売の文芸誌10月号の巻頭を飾った作品は、「文学界」が演劇ユニット「阿佐ケ谷スパイダース」を主宰する長塚圭史氏の戯曲、「すばる」が井上ひさし氏の戯曲、「群像」が新鋭劇作家・前田司郎氏の長編小説、「新潮」が批評家・東浩紀氏とライトノベル作家・桜坂洋氏の合作小説だ。 「文学界」は、岡田利規氏ら若手劇作家による座談会も載せている。船山幹雄編集長は「演劇に新しい才能が集まっているのでは、と考えて特集を組んだ。若手劇作家の書く小説は、今の若者の空気を等身大にとらえている」と語る。 「ジャーナリズムではすくい取れない、社会の中の目立たない声を文学は独特の感覚でとらえて形にしてきた。こういう機能は、今こそ文芸誌に求められる」 「新潮」は近年、ミステリー出身の高村薫氏、桐野夏生氏や古川日出男氏、ライトノベル出身の佐藤友哉氏らを押し出している。 矢野優編集長は「高村さんや桐野さんは現代の問題を現代の想像力で書こうとしている。戦後成長期の終焉(しゅうえん)と、劇的な情報化社会への移行の中で、人間の精神が変容しているとすれば、文学も変わらざるを得ない。純文学とエンターテインメントの境界よりも、時代を感じ取る能力や想像力の鋭さを優先したい」と語る。 今月号に東・桜坂両氏の合作を掲載したのも、「あえて文芸誌批判とも読める作品を掲載し、読者への問題提起としたかった」。 最近は、これから芥川賞を狙う位置にいる若手作家の小説を巻頭に置くケースが多い。「若い作家にシフトするつもりはなく、筒井康隆さんや大江健三郎さんの連載が重なったので、若手に賭けることができた。ベテランと気鋭が火花を散らす雑誌を目指しています」 一方、他分野の書き手を積極的に登用してきたのは「群像」。石坂秀之編集長(02年7月〜05年2月)は劇作家の本谷有希子氏や前田氏の小説を掲載。最近では、イラストレーターの日本人女性Grave Grinder氏の「アタシ解体新書」(8月号)が異色。主人公の女性の転落を劇画のように激烈に描きながら、実はこうではなかったというオチがつく、文芸誌には珍しい作風だ。 現在の内藤裕之編集長は「純文学は、自分をどうしても表現したいという思いが核にあるものだと思う。Grinderさんには、書きたいという理由なき衝動がある。どうしてこんなものが文芸誌に? と毀誉褒貶(きよほうへん)がある作品の方がいい。自らの殻を打ち破るのが文学でしょう」と語る。 純文学は今後、どこに向かってゆくのだろうか。 ここから広告です 広告終わり この記事の関連情報ひと・流行・話題 バックナンバー
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