京都大学医学部附属病院 精神科神経科教授
林 拓二
京都大学の精神神経科は、ちょうど100年前の1902年9月(明治35年)に精神病学講座として設置されました。そして、今村新吉先生が初代教授として赴任され、1904年3月に精神科の診療が開始されて以来、当科は日本における精神医学の臨床と研究の中心として、その責任を果たしてきました。
私たちの臨床の場は、川端通りに面した2階建ての建物と、それに続く1階建ての建物に置いています。前者には外来部門と研究室があり、定床80の病棟(西病棟)は後者の建物にあります。当科創立時より年を経て見上げるように大きくなった木々のなかに、四季折々の様々な花を楽しむことが出来る庭を生かした病棟のたたずまいは、明るく晴れやかで、心を病む人の治療に、最も適したすばらしい環境と言えましょう。このような環境のもとで、精神医学における治療の進歩にもかかわらずなお入院を必要とする患者さんの治療が、可能な限り開放的に行われております。
今日、精神科医療は薬物療法の発展やデイケアなどの地域支援体制の充実によって、多くの患者さんが外来で治療されるようになってきました。外来部門では、精神病やうつ病に限らず、神経症や摂食障害、さらには、まさに“現代的”な心の悩みを抱えた多くの患者さんが訪れ、あらゆる種類の相談や治療が行われております。
研究の面でも、当科はこれまで精神病理学や神経心理学、あるいは神経病理学、さらには児童・思春期精神医学や法精神医学などの領域において、我が国の中心的な役割を担ってきました。私たちはこのような伝統を引き継ぎ、さらに発展させたいと考えております。しかし、精神医学は、近年めざましい発展を示している脳科学と無関係ではあり得ません。その研究手段は、脳イメージングから遺伝子解析までの様々な方法が用いられるようになっております。当科でも、さまざまな病態を示す精神疾患の病因を解明し、新しい治療法の可能性を探るために、これらの生物学的な方法を用いた研究を、さらに活発に行っていきたいと考えております。
私たちの臨床と研究における活動が、心を病み、また多くの悩みを抱えた患者さんのためになることを願っております。そのためにも、人類に残された最後の難問とされる心と脳の問題の解明に、情熱を賭けようとする若い医師諸君が、この京都の地で、精神科医としての未来を切り開いていただきたいと思っております。
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