2人だけのシグナル   2





「宅急便で〜〜す。」

その声に千秋が、玄関のドアを開けると

峰が手を振って、笑顔で立っていた

「・・・・・なんちって!」

「またお前か・・・。」

宅急便の声に騙されて、ドアを開けたのが

いけなかった。

峰がまたドカドカと部屋に上がり込んで来た。

「今日は何の用だ?」

千秋は一人っきりのくつろぎタイムを邪魔されて、

不機嫌極まりないようで、腕を組んだまま、突っ立っている。

「出前の皿を取りに来たんだ〜〜。」

峰が肩をすくませて愛想笑いをする。

「それなら、裏軒の大将が取りに来てもいいように

玄関の外に置いてあったはずだっ!」

千秋はさっさと用事を済ませて彼を追い出したかったので

玄関の方を指さして峰を誘導する

「それと・・・・・千秋とももう少し話をしたかったしな・・・・。」

何だか峰が意味ありげな笑顔を向けた

千秋は大きく目を見開いて、峰を睨んだ

「な・・・何だよ?気持ち悪いな・・・話なら学校でしただろ?」

確かにそうだが

Sオケの演奏会が終わってからは

メンバーが顔を合わせることがほとんどなかった

特に、千秋はシュトレーゼマンに付き合って

日本の西へ東へと飛び回っていた。

久々の学校に行ったら峰達Sオケの連中に捕まった

峰はその時、千秋の帰りを待っていて

千秋を見つけると走り寄って手を握った

「俺!!自分以外の演奏で感動したの初めてなんだ!!

頼む!千秋の指揮で、Sオケやろう!!」

峰は楽しいSオケの連中と

また楽しく演奏が出来きないかと思っていた。

しかし千秋の返事はノーだった。

「内輪でワイワイ馴れ合うのは嫌だっ!」

相変わらず冷たい反応だ。

「じゃあ・・・・千秋はこれからどうするんだ・・・?」

峰が心配して聞いた。

それが解れば苦労はしない。

千秋はそれには答えずに、彼を残して先を急いだ

大きなお世話だ・・・・大きなお世話・・・・。

俺がどうしようが俺の勝手だろう・・・・?

千秋の演奏を聴いて

彼の才能のファンになった人たちが

千秋の周りで騒いでいる

自分の未来に期待してくれるのは有り難いが

千秋自身もこれからどうしたいかまだ決まっていなかった

周りが「どうするんだ?」と騒げば、騒ぐほど

千秋の気持ちは苛立った

俺はここ(日本)で何がしたいんだ・・・?


同じく峰も千秋に誘いを断られて意地になっていた

確かに千秋に比べれば自分には才能がない事は明らかだ

そんな自分と一緒に演奏しても

千秋が満足出来ないのもわかる

千秋は他の誰よりも・・・・才能があったし音楽を愛していたからだ。

半端なトコロで妥協したくないのだ。

音大の多くの者が遊び半分で楽しく楽器と向き合っている中で

千秋の才能はプロレベルだった。

峰には願いが到底、叶う相手ではなかった

「それでも俺・・・・諦めきれない!」

千秋に拒まれたのはよくわかる当然の事だ

そんなの最初からわかっていた

峰は今まで真剣に演奏なんてしてなかった

あくまで自分が楽しければ良かった。

それで、気の合う仲間とロックのバンドを組んで

卒業したら家業の裏軒を継げばいい・・・・。

そのぐらいに考えていた。

でも千秋は違っていた

人に嫌われる事を何とも思わない。

彼の才能が人付き合いの悪い

彼の欠点を埋めてくれる。

峰は千秋の演奏のファンになってしまった。

真剣な奴の演奏って人に感動を与えるんだ・・・。

アイツは人にも厳しいが自分にも厳しい・・。

自分と一つしか年が違わないのに

千秋にはそういう演奏が出来る

俺もそうなりたい・・・・・。

峰の憧れは膨れ上がって

千秋の背中を追った

「どうすればいい・・・?どうすれば千秋のオケに入れる?」

峰の真剣な眼差しに千秋は振り向いて言った

「今度の試験でAオケに入れ・・・話はそれからだ・・・。」

要するにもっと上手くなれと言うのだ・・・。

峰はそれでも千秋にチャンスを貰って嬉しくなった

「うん・・・・うん。頑張る!」

死ぬ気で頑張るっ!

千秋に認めて貰って、彼のオケで演奏出来るなら・・・。

峰は嬉しく踊りながら、

腕を広げてまるで飛行機にでもなったように走って帰っていく

Sオケの演奏会の音楽が

頭の中に流れてくるのが分る・・・。


またあの時の感動が甦る・・・・。



沢山の拍手と・・・・・それに混じった笑い声を・・・・。



あの時、確かに俺達は一つだった。





千秋が俺に与えてくれた奇跡・・・・。





もう一度・・・・・・甦れ・・・。













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先日のドラマを見て
てっきり受け攻めの世界に行くかと思いきや・・。
あまりに感動してシリアスになってしましました。
ご期待を裏切ってしまったらゴメンナサイ。
もう少し・・・・そっち系の萌が想像できたらそっちに行くかもですが
今回は本当に感動したので・・・ダメでした。
ノダメ・・・ギャグとシリアスのバランスが凄くいいな〜と思って見ています。
かなりバカっぽいけど
若い彼らにはあのぐらいがいいかな〜と。
崩れたり・・・崩壊したり・・・また積み上げて作ったり。
それの繰り替えし・・・・・。
大事なのは立ち止まらない事・・・。
そんな事を教えてくれるドラマでした。
続き読みたいと言ってくれた奇特な方!!
ありがとうございました!