2人だけのシグナル
どんなに頑張っても届かない・・・・
あいつの頭の中の音楽の
そのたった一音にさえ・・・・・。
今の俺では、到底あいつを満足させる事が出来ない・・・・
せめてあいつが表現したい音楽がどういうモノかでも
教えてくれたらいいのにな・・・。
そんな思いで峰は千秋のマンションのドアを叩いた。
「誰だ!ノダメか?」
ドアの向こうで千秋が怒鳴りながら
ドアを思い切り強く開ける
ご飯時のこの時間、ノダメは自分の茶碗を
晩ご飯を漁りにくる
しかし、その夜、そこに立っていたのは意外な人物だった。
「俺!俺!コンマスの峰だよ!!」」
シュトレーゼマンにコンマスに抜擢された彼は
あまりの千秋のスパルタ練習に、
嫌気がさしたSオケのみんなが
ボイコットを言い出したので
オケをまとめる役のコンマスの峰が、
皆を代表して千秋に抗議しに来たのだ。
皆はもっと楽しんで曲を弾きたいと言うが
完璧を目指す千秋にはそれは通用しないことは
峰にも良く分かっていた。
「何の用だ峰・・・。」
千秋が怪訝そうに眉間にしわを寄せて聞く
相変わらずの冷たい対応だ。
「いや・・・・・演奏に息詰まってるみたいだから元気出してもらおうと思ってさ。」
そう言いながら裏軒の出前を渡す
「何だよこれ・・・。」
「差し入れに決まってるじゃん。」
いきなり抗議を言い出すのも、何なので
峰なりに気を使ってきたのだ。
「あ・・・・ありがと。」
千秋が少し照れ気味にそういうのが聞こえたので
廊下で突っ立ってる千秋を後にして、峰が部屋に入っていく
「いい部屋だね〜〜〜〜ここで一人暮らしなんだ。」
整えられた家具や、グランドピアノを見渡して
峰が羨ましそうにため息をついた
「何だよ・・・・・遊びに来たなら帰れよ。」
千秋が怒ったようにいう
彼は、さっきから3日後に控えた、演奏の譜面をチェックしている所だった
彼は勉強の邪魔をされる事がとても嫌いだった
タダでさえ全然出来ていないのに・・・・気持ちが焦ってイライラした。
「俺コンマスだよ・・・・少しは力に乗るって・・・!」
峰が慌てて訂正しながらソファーに座る
下から千秋を見上げるように笑うが
千秋はバカにしたように鼻で笑った
「話した所で弾けるのかよ・・・。」
千秋は腕を組んだまま突っ立っている
「あ・・・・・ひでぇいい方だな・・・・」
「恥をかくよりましだ。」
今のままのオケではAオケと比べられて笑いモノにされるのがオチだ。
しかし、元々下手の集まりのような彼らを
短い時間でまとめる事もままならない
息詰まった千秋は峰の差し入れに手を着けずに
楽譜と格闘していた
それをみて峰が段々と彼に近づいていく
それに気づいて千秋が勢い良く振り向いた
「何だよ!!」
「いや・・・・千秋の電波を感じようと思って・・・。」
あまりの千秋の剣幕に驚いて峰が後ろに下がる
「電波・・・?何の?」
千秋は峰の言うことが分からずに聞き返した
「おまえのやりたい事が分からないかな〜〜?と思って・・・。」
峰が戸惑うようにそう言う
「ふん・・・・そんなの分かれば悩んでないよ!」
千秋が峰の方を向いた
「千秋・・・悩んでるんだ・・・・?」
「当然だろ?オケは一人じゃないからね・・・二人でもない
彼らを、まとめて行くのが大変なんだ。楽譜通りに弾けない奴ばかりだからね。」
千秋はそう言いながらも何処か楽しそうだった。
それを見て、峰が出前をテーブルに乗せて食べ始めた
「飯〜〜食おう!食おう〜〜!」
千秋にも、すすめると楽譜から目を離さずに食べ始める
「それで・・・峰。俺に何か話でもあるのか?」
二人で何も話さずに飯を食うのも気まずい
千秋が隣で音を立てながら豪快に食べる
峰を横目で見ながら聞いた
「あ〜〜え〜〜ほら。俺、以前、熱を出したノダメの替わりに
千秋と演奏したよね?」
「うん・・・・。」
「あの時は千秋と一度も合わせた事がなかったのに・・・・俺、凄く気持ちよくて・・・。」
「何が・・・?」
「だから千秋との演奏。俺に合わせてくれたんだろう?」
峰が嬉しそうに聞く
「そんな事が嬉しいのか?」
千秋にとっては演奏が崩壊しないように必死に頑張っただけだった。
仮にもピアノでは一番の腕だと自負していた
相手が峰でなくても千秋なら完璧に出来るだろう
それでも峰は以前、千秋に演奏を頼んだ時に
千秋に下手だと言って投げられた事もあって
彼の事を恨んでいたが
あの演奏をして以来、クラッシックの魅力に目覚めてしまったのだ。
・・・・・・というよりも千秋の奏でる音楽に魅了されたのかもしれない。
千秋と演奏するのが自分には気持ちが良くて心地よい事だった
その千秋がオケの指揮をするようになって
完成度を求めるあまり厳しくなる練習に皆が不平を言いだした。
コンマスの峰はいても立ってもいられずに
千秋の所に来たのだ。
それでも千秋の態度は変わらない
「俺に出来ることあったら言ってよ・・・・。俺は千秋の味方だからさ・・。」
峰が楽譜と格闘する千秋を元気づけようとすると
いらぬ世話だと言うように笑った
「お前は・・・ここに来る時間あるなら自分の演奏マスターしろよ・・・・
コンマスが足引っ張ってるじゃないか・・・。」
千秋が容赦なく峰を責めると
峰が涙を溜めて泣き出した
「千秋のバカ〜〜〜!!」
ことのほか大きな声で泣き出した峰に千秋が驚いて
慌てて彼に謝った
「わ・・・悪かったよ!!言い過ぎたよ・・・・泣くな!!」
峰が肩を大きく揺らして泣くのをみて背中をさすった
「千秋は鬼だ〜〜コンマス降ろすと脅すし・・・・!
俺がせっかく差し入れに来たのに
帰って練習しろはないだろう〜〜〜?」
峰はグシグシと鼻を鳴らして涙を拭く
「分かった・・・!分かったよ・・・!」
千秋が峰の肩を抱いて背中を優しくなでた
「千秋は俺の事・・・嫌いなのか?」
「は?何で??」
嫌いとか好きとかどうしてそんな思考に行くのか分からずに
千秋が峰をみた
「俺は千秋のピアノは好きだけど・・・・指揮者の千秋は大嫌いだ。」
千秋も好きこのんでSオケの指揮をしてるわけではないので
そんなことを言われると少し腹がたった
しかし引き受けたからには
出来る限りのベストを尽くすのが彼のやり方だ
中途半端に誉める事は相手にとっても良くないと思っていた。
しかし、彼の努力にも目を止めて、誉める事も大事だと
Sオケの指揮者になってから気づいた。
「お前はかなり上手くなったよ・・・・だから泣くなよ。」
「ホント?俺上手くなった?」
峰が目を大きく見開いて嬉しそうに聞くので千秋が何度も頷いた
「うん。上手くなった。俺と弾いた時とは段違い位にね。」
そういって笑顔を見せると、峰がガッツポーズをして声を上げた
「うお〜〜!千秋が認めてくれた!!」
峰は相変わらず一人で盛り上がって
嬉しそうにはしゃぎ回っている
千秋は頃合いをみて声をかけた
「んじゃ・・・・・俺。まだこれ終わりそうにないんで・・。」
そう言って楽譜をヒラヒラと揺らしてみる
「そうか〜〜〜!!頑張れよ千秋!!
あ・・・・俺もコンマス頑張りますっ!」
峰は千秋に誉められた事に有頂天になって
嬉しそうに、部屋を出ていった
千秋は一人残されて考えた
「あいつ・・・・ここに何しに来たんだ・・・・?」
そのころ峰は嬉しそうにスキップをしながら帰っていく
「千秋の電波が俺に通じた〜〜〜〜俺は千秋に認められた〜〜〜!」
嬉しさを隠しきれずに、
そう叫びながら走って行く
続く→
読んで下さってありがとうございます。
ノダメカンタービレの峰と千秋のイメージで書いてみました〜〜〜。
いかがでしたでしょうか?
何か反応あるとまた書いてしまうかもしれません・・・爆